本

『脳を活かす勉強法』

ホンとの本

『脳を活かす勉強法』
茂木健一郎
PHP研究所
\1155
2007.12

 こうしたタイトルの実用書で、ためになったというためしがない。たいていは、成功した人が、自分の経験を、さも普遍性をもつことであるかのように語り、尤もらしい理屈をつけているばかりである。
 ところが、この本は、最初から著者のそのようなタイプのアラを見出すことが殆どできなかった。似非科学風なものに見えないこともないが、私の経験上、それはあるなと思えるようなことが多く記されていたのである。
 もちろんそこには、著者の体験というのがしばしば顔を出す。へえ、頭のいい人はよかったね、と普段ならいきたいところなのだが、私には不思議とひどくイヤミには聞こえなかった。
 主張のベースは一つのことである。自分が好きで集中してやることが大切だ、というのである。
 だが、塾ではそう思わせるのに一苦労する。そう思えるような子どもであれば、ほんとうに教える側は楽なのである。だから、塾に行けば成績が上がるだろうと安易に考えている子どもや親がいるとすれば、ストップをかけたい。成績が上がる子は、たぶん塾でなくても、上がったのである。ただ、システマチックな勉強法や効果的な点数の取り方を伝授してもらうか、あるいは周りに同じような生徒がたくさんいる環境に置かれてやる気が出たなどという効果があった可能性が高い。多くの子は、そういう段階になくて、まず勉強を好きになるにはどうすればよいか、という辺りから始まっていく。だが、ピーマンが嫌いな子はやはりどうしても嫌いなのであって、好きになれるはずなどない。
 こうした理由により、著者が、好きになればいいのだ、と安易に説明しても、ではどうやって好きになるのか、ということで、一向に進展しない事態が生まれているといえるのかもしれない。
 そこで、知的向上心がある人にとって、この本が実に参考になる、という宣伝をしておくにとどめよう。
 それと、確固としたスタンスから語る、話のうまさというものも著者にはあるから、信頼感は与えられるかもしれない。知恵を得ても賞品が与えられるわけでもないのに、という実利主義者へは、プラトンの返答が最後に語られているのをぜひご覧いただきたい。実にソクラテス的な解決が与えられているから。
 受験生にはどれほど役立つかしれないが、細切れ学習法など、改めて説明を受けると、なるほどなあと思えてくるから不思議だ。そもそも私は日々それしか実践できない身なので、当然だという印象でしかないのであるが。
 サブタイトルは――奇跡の「強化学習」となっている。ビジネスマン向けとも記されていないし、学生向けとされているわけでもない。本の売り方としてこのような漠然としたものでよかっただろうか、とよけいな心配もしてしまうが、読書がなぜよいのか、という説明もこういった形で与えられると、新鮮で、説得力がある。勉強に成果を求めていくとき、参考になる可能性が高いと思う。




Takapan
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