本

『西の魔女が死んだ』

ホンとの本

『西の魔女が死んだ』
梨木香歩
小学館
\1200
1996.4

 新刊というわけではない。子どもに読んでもらいたい本としても優れているので、取り上げる。
 それでも、話の筋を紹介してしまうのは、もったいないと思う。物語を味わう楽しみを半減させてはならないと考えるからだ。
 中学に入るところで、学校に行けなくなり、祖母の家で暮らすことになる少女。特殊な能力を持つその祖母は「魔女」と呼ばれている。祖母との話の中で、さまざまな疑問をぶつけ、とくに「死」についての問答が続くこともある。
 児童文学と呼ばれる分野で、こうまで「死」というものを正面切って論ずるものも珍しい。どうぞ直にお読みになって、その議論に加わって戴きたいと思う。
 この魔女は、イギリス人であり、キリスト教の伝道のようなことのために日本に来て、それから日本で暮らすことになったということになっている。それなら、「死」について、もっと聖書に関わる部分があってもよかったのでは、と思う。およそこの魔女の議論は、聖書の香りを感じさせることなく、いかにも日本人的に流されていく。たしかに、魂があるという点で、一見聖書の内容に関係しているようでありながら、霊肉二元論に留まるような言い方で終始するくだりなどを見ると、聖書を理解してきた人の発想とは違うのではないか、という違和感を、感じざるをえなかった。
 だが、そんなことはともかくとして、ストーリー展開や描写の巧さは、見事である。十分楽しめる。そして、子どもに触れてもらうことは悪くないという気がする。天性の感受性を持ち合わせた著者は、思い切った生活をしており、独自の世界を築いている。その初期の名作として、中学生くらいからなら十分理解を深めることができると思われる作品である。




Takapan
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