『アンデルセン ショートセレクション 人魚姫』
木村由利子訳
ヨシタケシンスケ絵
理論社
\1300+
2026.1.
久しぶりにこの「ショートセレクション」シリーズを手にした。図書館頼りなのだが、入荷がしばらく空いたのだと思う。ヨシタケシンスケの絵が飄々としていて、目を惹く。営業的にはそれは成功しているのではないか、と思うのだが、私のように購入していない者がいるのは、業者としては面白くないかもしれない。せめてもの罪滅ぼしに、宣伝をしようとしているのだが、身勝手と言われても仕方が無いだろう。
ハードカバーで、程よくふりがなもついている。小学校高学年ならば読むのにさほど困難は感じないだろうと思う。文字の大きさやレイアウトなども、程よい。216頁の長さも、厭きさせず、程よい。
但し、これはこのシリーズ全般に言えることである。
それで、本書である。アンデルセンは、150以上の童話を世に送っている。本書にはねそのうちのほんのわずか、10話だけが収められている。だが、入門としては十分であろう。岩波書店が童話集を発行している。だが、全部を読むのはしんどいし、中にはやはりいまの子どもには難しかったり、読むためにけっこうな知識や注釈が必要になるものもあるだろう。お話がそのまま読めて、子どもにも理解しやすいものを集めた、手軽なこのような短編集は、ニーズがあるだろうと思う。
タイトルの「人魚姫」は、最後に控えている。ディズニーでも知られるが、もちろんディズニーの脚色は、アンデルセンとは違う。それは、アナと雪の女王のときもそうだった。「雪の女王」とは似ても似つかないものであった。
私は以前にも読んでいたのでおおまかに知っていたが、改めて読むと、実に悲しく、切ない。自分のしたよいことが他人の貢献とされ、おまけにその人に、自分の希望がすべて奪い去られて、自分の命が果てることになる。しかも、その人というのには、全く悪気がないし、断固としてその人のせいではない。まるで運命全体が人魚姫を不幸にするかのように働いてゆく。ここまで、ほのぼのとしたものや笑える作品を楽しんできた読者は、最後に胸を詰まらせるような印象を抱える形で、本を閉じることになる。実にしんみりとした形で、「訳者あとがき」を読むことになる。
しかし、このシリーズの「訳者あとがき」は、3頁という短い中で、作家の生い立ちを簡潔に紹介し、作品の一つひとつに詳しく触れるようなことはない。しかも、批評の場ではないから、価値判断をそこで下すようなことはしない。こうした制約がある中で、今回は、作品の中に隠された、アンデルセン自身の経験を、手短に幾つか紹介していて、これはとても嬉しかった。
それは、「アンデルセンは自分語りが好きな人で、自伝を三冊著しただけでも足りなかったのか、自作の中にちょくちょく本人が登場します」と紹介したところから始まる。具体的に「恋人たち」に登場する「まり」のこと、「イーダちゃんの花」に登場する学生のことが、簡潔にエピソードとして紹介される。「みにくいアヒルの子」が一種の自伝であることも、本作を読んだ人でなければ分からないような形で書いてある。さらに「影」には、ドイツ語に似たデンマーク語の「敬語問題」が潜んでいることが潜んでいるらしく、それはアンデルセン自身が生涯こだわった問題であることが記されている。
冒頭に置かれた作品は、「豆つぶの上にねたお姫さま」である。とても短く、小学生でもあっという間に読み終えるであろう。こうして、読みやすい本だ、と思わせることは大切である。続いて、「皇帝の新しい衣装」が置かれた。きっと有名であるはずの、いわゆる「はだかの王様」である。アレンジされた「お話」とは違う、アンデルセン原作を味わうことは、子どもたちには新鮮であるだろう。
次の「お父ちゃんのいうことは間違いない」は面白い。わらしべ長者の逆バージョンであるのだが、物語はたぶん読者が予想するところと違う方向へ流れ落ちるだろう。
先にも挙げたが、「みにくいアヒルの子」も、アレンジされてよく知られていると思うが、これも原作に触れることは、子どもの自尊心をも満足させるのではないだろうか。実はボクは、本当の「みにくいアヒルの子」を知っているんだ、と。
よいシリーズだ。これからも出版が続くことを、そして子どもたちが沢山のお話に触れることを、いやいや、大人たちが心和む文学を愉しむことを、心から願っている。

た
か
ぱ
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イ
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