本

『人間はどこまで動物か』

ホンとの本

『人間はどこまで動物か』
日高敏隆
新潮社
\1365
2004.5

 私なんぞは、自然に対する造詣が深くないので、ひたすら現物を苦労して探し、追いかけ、取り組むという、どこか当てのないフィールドワークに勤しむ人々に、ある種の嫉妬を覚えるものである。
 滋賀県立大学学長をお務めとあっては、教育者としての激務にも耐えてこられた方であり、私なんぞはそばに近寄ることもできない。
 生物学や生態に一定の知識がないと、読みづらい部分があるかもしれない。しかし、あくまで一般を対象に綴られたエッセイなので、基本的には誰がどのように読んでも楽しむことができる。少しばかりの生物、とくに昆虫の名前が判別できれば、むしろ興味をもってその博学にあたることができるのである。
 南方熊楠賞受賞の記念講演で語られた内容を説明してくれる「モンシロチョウとアゲハチョウ」などは、そのまま国語の入試問題に使わせてもらいたいくらいに明晰で興味深い話であった。
 どのエピソードも、5頁以内に収まる形で書かれており、少しずつ読むために厭きさせず、本としても楽しいものになった。
 何より、自然を大切にするにはどうしたらよいかという眼差しが始終感じられ、さらにありきたりの口先だけの運動でよしとせずに、素朴な疑問は疑問として大切に懐に抱いておられる様子が、よく伝わってくる。こんな現場からの切実な視点をもっている方こそが、政策や環境問題の場で大いに発言なさってほしいものだ。利権目的の政治屋が、でなく。
 私も、もっと身近な自然を、素直な気持ちで見つけたくなってきた。そうさせる何かがこの本にはあり、あるから、命についての大切なメッセージを含んでいると、支持できるのである。人の思惑でなく、自然の道理としての、命の問題が隠れている、と。




Takapan
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