本

『日本人の一年と一生』

ホンとの本

『日本人の一年と一生』
石井研二
春秋社
\1890
2005.2

 優れた本である。私たちのアイデンティティに目を向けさせてくれる。
 神道の研究家の手による本ではあるが、かなりフェアであり、学ぶところが多い。
 知らないことにいろいろ出合った。意識調査による結果にハッとしたこともあった。
 クリスマスはすっかり日本の行事、習俗として馴染んでいるかのように見えるが、著者によると、民俗学においてクリスマスは、年中行事として挙げられておらず、まともに調査研究がなされたことがない、というのである。
 そのためか、著者はクリスマスのために、200頁のうち30頁を費やすほどの記述を行っている。
 よくある意識として、それは商売目的だ、商業主義だというものがある。バレンタインデーもそうだ。だが、いくら商売の側から目論んでも定着しない行事が数多くある中で、これらが爆発的に普及しているかの説明にはならない。結局、大衆の方でそれを選び取る理由があったのだということを強調する。
 結婚式にしても、この10年において、神道式が影を潜め、圧倒的にチャペル式が占めているという事実を挙げているが、神道側に立つ著者もそこに妙な肩入れや反発をする気配を見せず、そもそも神前結婚ですら、キリスト教の結婚式の影響で成立した模様であることを告げる。日本の伝統の結婚の際には、本来宗教性は見られなかったという歴史から説くので、説得力もある。
 本の最初には、伝統行事や習俗がいかに衰退しているかの驚くべき調査結果が挙げられているが、それは私にしてもそうである。50年前の調査と比べて、山村においても如何に生活が激変したかが示されるが、考えてみればそれは至極当然のことであるのだろう。
 日々の生活の中で、私たちが「あたりまえ」と考えるようになってしまっているものが、実は日本史上極めて特殊なものであることに、私たちはなかなか気づこうとしない。それでいて、形だけ踏襲しようとする、成人式や業者任せの葬式を営む中で、私たちはいったい自分を何者だと理解しようとしているのか、著者は問う。
 重いテーマの本であり、多くの人に読んで戴き、考える必要のある本ではないかと思う。




Takapan
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