本

『日本評論』

ホンとの本

『日本評論』
前田孝一
東京図書出版会
\1155
2005.2

 どう感想を書けばいいのか、正直言ってよく分からない。
 著者は、いわば素人さんである。文章も、とりたてて巧いわけではない。何が言いたいか分からないところもある。
 要するに、新聞や報道で見聞きすることについて、世を嘆き、次々と文句を呟いているという本である。
 共感したいところもあるが、たいていは感情で書き記されているので、そこまで言うことはできないのではないか、と引いてしまうこともある。
 ある意味で、著者はそのことを分かっている。まえがきと、最後のほうの項目の中で、共通して書かれてあることがあり、それは、自分の学生期の内申書の内容であるという。
「創作の才あるも、感情に激しやすく理性に乏し、責任観念、普通」
 しばしば著者は自嘲的に語り、自分のことを見下して構わないといったふうに述べているが、たぶん本心ではないと思う。それならば、世に問うこともする必要がない。私とて、その気持ちが分からないわけではないが、述べるからには、一定の責任は負わなければならない。自嘲気味な言い方は、責任感がないとは言わないにしても、強くはない。まさに「普通」なのだろう。
 日本の政治にしろ、風俗にしろ、そして著者の関心の大きな教育問題にしろ、各方面に発言しているわりには、新聞の論評を越えるものはない。新聞において疑問が呈されていることに同調して、それを増幅しているばかりのようにさえ見える。
 それは、著者自身のスタンスのようなものが、どこにも記されていないことからも、想定されるものである。
 お歳を召した方の呟きに、けちをつけるつもりはない。でも、この人の生きた証しのようなものとして、出版までお考えなのだったら、新聞社説の切り貼りのようなものではなくて、この人しか書けないような、体験に基づく半生を教えて戴きたかった。略歴にもあような、「放浪生活」のことを語ってくださったら、私はもっと耳を傾けて敬意をはっきり表すことができたであろう。




Takapan
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