本

『長崎の教会』

ホンとの本

『長崎の教会』
NHK「美の壺」製作班編
NHK出版
\997
2008.6

 NHKの比較的地味な番組、と言えば失礼だろうか、「美の壺」という番組での放送内容と取材を、まさにそれが美であるというためか、美しく本にまとめあげたものである。  番組に応じて、出版されているようだ。
 写真が綺麗である。その対象を愛する写真家と執筆家が、長崎の教会について、読みやすいものをまとめた。
 あまりに専門的になるというものでもない。まさに番組の狙いといったレベルが、本においても実現されているように思う。それでいて、資料的には人々が関心を持ちやすく、そして美しい写真として並んでいるものだから、ついぱらぱらと見てしまう。その上、文章が短い。走り読みだとほんとうにすぐに読めてしまう。それは内容的にも、易しい書き方がしてあるということなのだろう。
 長崎の教会について、さしたる背景を知らない人にも、十分分かりやすく文章が書かれている。
 信仰内容には立ち入らない。だが、信仰の思い、そこにある祈りという神秘的な行為を聞き取るように、本は仕向ける。
 この「壺」とは、ドラマ仕立てのような番組で、三つの観点からその対象を見つめるという試みをなすとき、壱のツボ、弐のツボ、参のツボと名付けられているものである。壱は「祈りの場に和の心を見よ」、弐は「かくれキリシタンの祈りを感じよ」、参は「素朴な光の絵画を楽しむ」となっている。なかなかよい視点かもしれない。
 私は、明治の教会建築となれば、一方で、プロテスタントのヴォーリズを挙げると共に、カトリックの鉄川与助を大きな存在として感じている。今村の天主堂くらいしか直に見たことはないが、魂のこもった建築であることは、すぐに伝わってくる。信徒であるとかないとかいうレベルの問題ではない。神が送った助け手は、神の栄光をあらわすために用いられるのである。
 この本でも、鉄川与助が取り上げられ、紹介されているのがいい。
 さらに、島々の教会を明治期に建てるために、かくれキリシタンであった、あるいはその流れを汲むであろう信者たちが、全財産を献げたということや、そのために逆に島を出なければ生きていけなくなったことなども、この本には触れられている。
 目の前に現れる現象としての建築物の背後に、人の心を思いやるという姿勢は、大いに共感できる。それだけでも、この本が温かいものであることが分かろうというものだ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります