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『暴走するネット広告』

ホンとの本

『暴走するネット広告』
NHK取材班
NHK出版新書590
\800+
2019.6.

 NHKが取材したことを新書で広く告知するようなことになる。ネット広告というぼんやりしたタイトルだが、はっきり言うと詐欺広告や不正広告の告発である。ニセ広告の手口を暴くというのが本書の使命であろう。
 サブタイトルに「1兆8000億円市場の落とし穴」とあり、この広告社会の中でネットの広告はもはやとめどなく膨らんでいく方向にあることが窺える。そうした現状と展望が、確かに本書の初めのようには書かれている。しかし、すぐにフェイク広告の実態が紹介され、それを製作する側へのアプローチへと深まっていくことになるのである。
 確かに、合法的な手法がないわけではない。また、これはどうかと思われる事態でも、それを罰する法律がまだできていない、つまり法律が技術に追いついていないという現状も示される。
 そして、いよいよ海賊版サイト・漫画村を取材する。この辺り、ただ調査結果を提供するというのでなく、NHKが番組作りでも用いているテクニックとでも言おうか、取材過程で目的の人物に迫っていく様子がそこそこ多く語られていき、ドキュメンタリーの様相を帯びてくる。そのため、私はとりあえずこれを一日で読まなければならない事情があったので、取材過程の会話などは悪いけれど殆どスルーに等しいようにして駆け抜けていった。
 もちろん、漫画を違法に紹介して無料で読ませていくということは、漫画家の死活問題となる。かつて(今も)中国で著作権なしのために幾らでも漫画が垂れ流しということがあったが、漫画村のやり方はどうやらそれより酷いとさえ言われるものだったらしい。私は関わったことがないが、多くの読者を得ていたようだ。
 しかも、無料で読めるという怪しさだけではなく、その広告の出し方にトリックがあり、有名企業や新聞社などがその違法なサイトへ広告を出しているシステムがあったり、広告料を無駄に支払っていたりする現象があるのだという。検索サイトやSNSでも広告にその違法サイトが絡んだりすることは避けられないようで、かなり弾くべくAIや監視を用いて調べていても、完全に見つけ出し追い払うことはできないのだという。両者は、信頼のおけるSNSに広告が出ていたのだからとクリックし、注文することがあるが、それが大変悪質なところであるという事例も実際起こっている。
 本書はこのようなしくみをできるだけ提供していこうとするものでもあるが、公共的なサイトの広告も、ネットの中に出している限り、このような関係につながっていくことがあるという危険性も指摘している。そのとき「まとめサイト」と呼ばれるところの中に不正なものがあり、見えない形で利用するパソコンに立ち上がっていることがあるといった驚くべき現象も紹介されている。
 この対策はいくらしても、企む側の技術や手法はそれをかわして次のステップへ進んでいく。様々に立ち向かおうと各方面で対処しているが、現状ではどうしようもない部分が多々あるのだという。だから私たちも、ネットにある広告に信頼を寄せる前に、疑っていくことから始める必要がある。自己責任とまでは言いたくないが、自己防衛を図らなければ、有名な企業が広告を出しているから大丈夫だろう、と信頼しきっているわけにもゆかないということを、知っておくだけでも違うだろう。
 こういったからくりがあるということを指摘するのには勇気が要ることだろうと思う。悪の手口を公開するようなものなので、逆にこの本に解説してあることからヒントを得て、悪事に手を染める者がいないとも限らない。しかし、一般の利用者がこの手口を知るということは、やはり意味があるものと考えたい。Facebookが情報を漏洩したというニュースに、Facebookはけしからん、と非難する人は多いかもしれないが、そもそも情報が漏れないはずがない、という前提で対処して自分の情報を設定していくくらいの知恵と責任は、私たち利用者の側にあるといえるのではないだろうか。
 そこで最後に、本書にも指摘してある事態を用いて、私の見解をひとつ加えておく。確かに漫画村がやっていることは悪いことだという見解を、この話を聞くと誰もがとることだろうと思う。しかしそれでは、それを無料で呼んでいた人はどうなのかと言われれば、これを罰する法がないとのこと。つまり、違法ダウンロードにはようやく罰則を与えるというふうに変わってきたが、違法物を閲覧しても何の罪にも問われないというのだ。一時、スクリーンショットや保存を違法とすべく検討されていたが、立ち消えになっている。思うに、これでは利用者が違法に加担しているという意識すら生まれず、自分が漫画家を殺しているということを考えることもなく、無邪気に善良な一市民の顔をして、大衆がのほほんと悪をなしているという構図にほかならないのではないだろうか。平凡な者が最悪の悪を平気でなせるのである。凡庸の中に恐ろしさがあるということを、私たちは歴史の中から学んだのではなかっただろうか。
 自分は漫画村で読んでいるが、悪いのは漫画村だ、という論理を掲げるつもりなのだろうか。それがどんなに怖いことであるのか、それを知るだけの知恵を、ひとは持たなければならない。




Takapan
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