本

『眠れない夜のための短編集』

ホンとの本

『眠れない夜のための短編集』
藤木稟
新潮社
\1260
2004.8

 つけたくてもなかなかつける勇気のないタイトルである。これからまた続編が出てくるかもしれないが、一度こうつけてしまったら、もう次の本につけるタイトルがなくなってくるような気がする。いや、それは傍からの余計な心配か。
 四つの短編が収められている。いずれも『小説新潮』にこの2年の中で発表された作品である。
 怪奇ともホラーともミステリーとも呼び難いような、呼んでよいような、不思議な小説群であった。電車の中で読みつつ、私は笑いを抑えることができなかった。
 後で思うに、これは「マンガ」ではないだろうか。もはや小説ではない。頭の中にマンガのコマが次々と浮かんでくるのである。こういう文章も魅力である。途中からやけに早過ぎるテンポのところもあるが、どうかするとねちっこく描き込む。かといって、退屈はさせない。これを面白いとみるかつまらないとみるかは人によりけりだろうが、奇妙な魅力が隠れているのは確かだろう。
 現実にはありえない幻想的なものばかりで、どうにも違和感を与えるものだが、それがマンガであるかぎり、認めないタイプのものではない。しかもそのマンガというのは、男の子の実にくだらないギャグマンガにあるようなタイプである場合がある。
 ネタの中には相当な下のものがあるので、教育的にはお薦めしたくないものだが、その辺りを弁えた大人の読者なら、「眠れない夜」にはもってこいかも、と囁こう。とくに男性諸氏ならば。
 引きこもり的な性格の強い作家ではないかと予感させるものが作品の中には溢れている。その意味では、通常の意味での「健全さ」は見られない。強烈な幻想体験または霊感体験に基づいての作品たちであるのかどうか、それは私は知らないが、そんなものを感じさせる。
 ネタバレを起こしてはいけないので、興味をもたれた方はどうぞ御自分の責任で楽しんでください。




Takapan
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