本

『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』

ホンとの本

『猫さえいれば、たいていのことはうまくいく。』
荻原浩・石田祥・清水晴木・標野凪・若竹七海・山本幸久
ポプラ文庫
\720+
2025.1.

 表紙の猫のイラストが目を惹く。オシャレではない。ちょっとふとめの猫ちゃんが、おっさんのように座っている。近くには雀が5羽。
 猫を取り上げた小説は少なくない。三毛猫ホームズシリーズは、もう半世紀ほども前からなお続いているという。しかしそれは現実の猫の物語とは言い難いであろう。猫がリアルな存在として登場するのがよいのだが、それが猫である故に大活躍をする、というストーリーもある一方、本当にそれは猫である必然性があったのかどうか、分からないというケースもあるだろう。私は、そういうさりげない登場でもいいとは思う。が、やはり猫である故に、物語に確かな感覚をもたらし、猫ならではの世界が感じられる、というくらいがよいだろうか。
 本書には、6人の作家が、40頁前後の短編をここに寄せている。それぞれに設定も雰囲気も異なり、各人の持ち味がそれぞれに輝いている。長さも、長すぎず短すぎず読んでいて心地よいし、一つひとつ気分が変わって厭きないで読み続けられる。ひとつ読んでも満足だが、もうひとつ読みたい、という気持ちも先走る。私は、電車の中で二つずつ読んだので、都合3日間で読み終えた。楽しかった。
 例によって、ストーリーを明かしてしまうことは御法度と考える。だから微妙なバランスの中で綴る。
 最初は「猫は長靴を履かない」。猫の気持ちが表現されることに疑いをもつぼくは、親を失った後、わびすけという猫と暮らすことになる。CMプランナーを仕事としているが、フリーのCMディレクターの麻里乃産さんに、わびすけの動画を配信しようともちかけられる。わびすけが何か言おうとしているのが、分かるような、分からないような……。
 「ツレ猫婚」では、婚活を始めたものの、七緒の目の前に現れた加納さん、何かフィーリングが合わない。だが、この男性、実は猫好きであった。それも、かなり凝ったもので、猫カフェで会うと、人が変わったようになる。ちょっと引いてしまうほどだった七緒だったが……。
 「いちたすいち」では、眠れない夜、独りが好きな成美はコインランドリーに行くことがある。そのとき黒猫と会う。元上司の真里さんが開いた夜カフェに行くようになるが、人間不信らしい黒猫と、少しずつ距離が近くなる。しかし、成美は会社で人間関係に深刻に悩むようになる。そのとき、黒猫にどこか勇気をもらうようになるのだ。この黒猫は目立った活動をするわけではないが、心も情景も黒である中で、何かその目の輝きが見えてくるような気がしてならない。
 「猫のヒゲ」は、高齢の女性が主人公。仕方なく飼うことになった猫も、年寄り猫だった。猫との生活は、いろいろと心を癒やしてくれることがあるものだ。シマ子と名付けたその猫は、極めて猫らしいことしかしないが、それでも十分、人の心を変えてゆくことができるものなのだ。
 突飛なスタートで謎から始まるのが、「神さまのウインク」である。途中からだんだん情況が分かってくる。だがそれをいま説明するのはやめよう。運命を呪うような、不良っぽい主人公が文句を言いまくるところから始まるのだが、猫にエサをまく猫ばあさんがいる。この猫ばあさんとの関わりが問題であった。
 「御後安全靴株式会社社史・飼い猫の項」で、大立がこの安全靴の会社の社史をつくることとなった。この会社には、ずっと猫が飼われていて、歴代の猫のことを取り上げることになる。いろいろな名前の猫が登場し、人を助ける出来事があったようだ。大立もまた、猫に勇気づけられることだろう。
 けっこうネタバレをしてしまったかもしれない。読んでいて疲れないし、概ね爽やかな気持ちになれる。確かに、猫さえいれば、たいていのことはうまくいくと思えるようになった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります