本

『夏はなぜ暑いのか』

ホンとの本

『夏はなぜ暑いのか』
佐藤文隆
岩波書店
\2415
2009.5

 照りつける太陽が表紙に輝く。これを手に取った日が、また夏の暑い日だった。
 夏はなぜ暑いのか。子どもたちに訊くと、「夏だから」という、もはや説明をすべて拒否するような回答もあれば、「太陽が近くなるから」という、尤もらしいものまで出てくるという。
 素朴な身の回りの出来事について、それは「なぜか」と問い直すことは、有益である。その疑問に素人がはまってしまうときに、生活上の支障が生じることがないわけではないが、考えないことのつまらなさや危険性に比べれば、その方がまだよいような気がする。そんなことはともかく、ここで事実と理論に基づいた説明をしようとする気があるのかどうか、そこに私たちの、人類の知恵と知識に対する姿勢が問われることになる。
 生きるためには必要ないことだよ、と言われたらそれまでである。だが、子どもたちがその程度で満足していくところに、知的好奇心や追究といったことが、ありうるだろうか。科学の盛衰は、教育と学問一般に大きく関わる問題となることを、私たちはあまり意識していない。
 ここには、科学的な読み物がたくさん収められている。いくつかの雑誌に掲載されていたものを集めたものである。それで、一つ一つの関連はばらばらであると言ってもよく、読者はどこからでも気に入ったところから読み始めるとよいだろう。タイトルの「夏はなぜ暑いのか」は冒頭にある。簡単な説明は簡単に済むかもしれないが、少し立ち入ったことに振れ始めると、実に広大な物理の現象や理論を展開しなければならなくなる。科学を世間に広める働きをしている点で手慣れた著者も、実のところそう安易に説明できないことを、いっそう理解しているわけだ。
 たんに理論ばかりが描かれているわけではない。その発見や探求にまつわるエピソードが入ると、科学者個人の人間性にも触れることになる。また、科学の歴史やときに宗教との関わりの中での歴史が語られ始めると、これまた実にドラマチックで面白い。
 ただ、全体的にやはり科学について一定の理解をしている人や、前提的な知識を有している人向けの文章だと言えるだろう。だがまた、だからこそ、妙に読者に媚びて、一般受けをする題材しか選べないとか、その説明が安易な喩えだけで終わってしまうとか、結局科学の深みを感じさせない内容のものに堕ちてしまうようなことがなかった、ということも言えるだろう。
 なお、著者の専門は、宇宙論や天文の分野である。そちらへの興味を抱きつつ、あるいは興味をこれから抱くような読者であれば、いっそう親しめることであろう。




Takapan
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