本

『世界の難民をたすける30の方法』

ホンとの本

『世界の難民をたすける30の方法』
滝澤三郎編著
合同出版
\1480+
2018.5.

 編著者は、国連UNHCR協会理事長だという。日本のニュースソースだと、国連難民高等弁務官事務所のほうが案外通りがいいだろう。ノーベル平和賞を二度受賞している組織である。現在も数千万いる、世界の難民・避難民。これだけいると、一概に性格づけることもできないが、難民と呼ばれる理由は一定の範疇に入っている。当人の意志によらずして、やむなく国を出て行かなければならなくなった人々は、しばしば貧困だとか飢餓だとかいう眼差しで見られるが、必ずしもそういうものでもなく、またこれからどう生活していくかということについても、様々である。ただ、受け入れ国がこの人たちに一定の地位と職を提供することなしには、なかなか生きていけるとは言えない状況になる。そしてこの難民たちを受け容れるとなると、共存していく道を探していくのでなければならない。
 でも、具体的にどうやって?
 これが日本にいるとなかなか分からない。島国であり、当該国からは距離のある日本へは、難民が押し寄せるということがなく、また来たときにも、実のところ難民認定は相当に厳しい条件によりなされるので、確かに難民という人々に私たちが出会えるチャンスは殆どないと思われるのが実情である。だがほんとうに出会っていないかどうかについては、分からない。外国人労働者もそう珍しくなくなった今となっては、難民かどうかを見たままに知ることはできなくなってしまったからである。
 しかし、これがこれから先は分からない。日本も変わっていくかもしれない。困っている人々は助けたいという思いがあるとすれば、世界に数多いこの難民の力になりたいと思う人が現れるかもしれないし、妙な偏見を抱くことがないようにするのも、大切なことだ。本書は、とくに若い人々に理解してもらいたいと言っている。聴覚障害者への理解が、手話言語条例などへと結実していったのと同様に、こうした理解が、実際に難民を助ける力となることを願っているのだ。
 しかし難民は身近な実例に乏しすぎるために、実際何をすれば協力できるのか、また何をすると迷惑になるのか、そんなところがよく分からないのが実情である。そのため、分かりやすく伝えようとする本書の意図は、非常にはっきりしている。また、各章の終わりに、難民の方の思いが作文のようにして置かれている。生の声として具体的で、またその人の思いがよく伝わってくるので、味わいたいところだ。
 まず、難民の実情、実態のようなことが紹介される。確かに、私たちは知らないことが覆い。それから世界での難民支援のあり方を示す。そして、日本が難民を支援しているのは事実であるのだが、その具体的な姿を教えてくれる。また、新しくこうした方法が助けになっているという例も示すようにして、それから実際に行動するということはどういうことであるのか、教えてくれる。こうして、写真も交えいろいろな場面を私たちに提供してくれる本書なのだが、タイトルや雰囲気から醸し出す入門書的なものは、吹っ飛ぶ感がある。確かに専門書ではないのは分かるが、かなり詳しく、具体的で、あらゆる場面できっちりしたデータに基づいて説明が施されているのだ。確かに情報は多く握っている著者であるが、雰囲気や感情でものを言うのではないということを、みっちり教えてくれるところは有難い。意見ではなくて事実がその場を支配する。そうでなければ、テレビのワイドショーのようなものになってしまうかもしれないだろう。
 難民がスマホを持っているということを不思議に思うことはできない。貧しいから難民となるわけではないのだ。しかし、そのことの故に楽に新しい環境で生活ができるというわけでもない。可哀相とか、大変だねとかいうようなことではなく、共に生活していく、その人たちが自立した経済生活ができるように支援する、少なくとも味方する、そうしたところに私たちの気持ちを置くならば、何か次の一手が見えてくるかもしれない。本書は具体的に、実に様々な難民たちの生活や生き方を紹介してくれているし、そのためにどんな助けが行われているかが示されている。日本に来たとしたら、「日本語」や「日本文か」ということが、実は最大の難敵なのだということもよく分かる。協力できることは、案外そういうところから、けっこうあるものなのかもしれない。




Takapan
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