本

『泣く』

ホンとの本

『泣く』
ちいさいなかま編集部
西川由紀子
草土文化
\1365
2004.6

 シンプルなタイトルにゆったりとした編集。ブックレット状になっているとみてよい。
 もっと、「泣く」ことについての分析やシステムの説明があるのかと期待した。あるいは、泣くことについての子どもの心理の探究が行われているのかと思った。
 しかし、中にあるのは、世のお母さんたちの「声」を集めているだけであった。その「声」が、どのようにして集められたのか、知りたかったが、本のどこにも記されていなかった。おそらく『ちいさいなかま』という雑誌で特集されたか、寄せられたかした投稿を集めたものではないかと予想するが、とにかく説明されていないので分からない。
 泣く理由やその状況について、あるいは困ったときにどう乗り越えたかなど、すべてはお母さんの目から見た景色、お母さんの心情の「声」であって、つまりはお母さんのための体験談集なのであった。
 それならそれで、そういうことが分かるように、本のどこかに示していてほしかったと思う。この本を手にとるのは、『ちいさいなかま』を読み慣れた仲間たちとは限らない。本の題名を長くする流行にもどうかとは思うが、タイトルでなしにでも、この本のコンセプトや編集方針、読者対象などを明らかにしてはもらえないだろうか。全部読んだ末に、初めてこういう本だったのだ、と分かるのは、ファンタジーや推理小説で十分だ。
 また、広告欄によると、この『ちいさいなかま』という雑誌は、サブタイトルとして「保育者と父母を結ぶ雑誌」と掲げられているが、少なくともこの本には「父」の視点はなかった。もちろん、泣いたときに夫が助けてくれた、という報告は無いわけではなかったが、父親の立場は何の説明も相談もなされていなかった。
 この本自体「子育てブックス」の一冊として位置づけられているが、「子育て」に最初から「父」が排除されているように思われてならない。西川先生からのアドバイスのコラムも随所にあるが、すべて「おかあさん」と呼びかけられているのである。「親子関係」という言葉が使われているコラムでも、よく読むと結局「おかあさん」しかそこには想定されていない。
 雑誌を編集しているのは、「全国保育団体連絡会」というところ。こういう団体が、保育はすべておかあさんと決めつけている以上、おそらく多くの問題は解決の糸口を見出すこともできないであろう。
 私はがっかりした。




Takapan
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