本

『ないしょやで』

ホンとの本

『ないしょやで』
冨岡みち詩
関口コオ絵
銀の鈴社
\1260
2001.3

 フリーアナウンサーを経て、精神薄弱者通所施設の指導員をなさった著者は、いわば作家活動については素人であった。だが、童謡詩集を世に出したいとの願いをもつほどに、詩を書きためていた。
 朝日カルチャーの詩の講座に来て、講師にそのことを打ち明ける。たくさんの手直しの必要のあることを告げると、みちさんはショックを受ける。また改めて勉強し直して、ここに出版されることになった。関口コオさんのすばらしいイラストを備えることもできた。
 しばしば大阪の言葉で親しげに語られるこれらの詩は、童謡として今すぐ歌えるような優しい響きを伝えている。
 はたして、それらが即ち子どもの世界であるのかどうか、については異論があるだろう。私のような素人の鑑賞が的確かどうかは知らないが、やはりこれらは、大人の目から見た、整った子ども心であるように感じられてならない。
 それは、評価を下げるようなつもりで言っているのではない。それでいいと思うのである。大人の中にも、当然、子ども心があってよいし、なくてはならないとさえ思う。そういいう、大人の中に根を張るべき子ども心というものが、前面に押し出されるような世界を突きつけられて然るべきだと考えたのである。
 たとえば子どもは、時に融通が利かない。決められた通りでないと、間違っていると思うことがある。しかし大人は、なあなあで済ますことを知恵のように捉えている。子どもの見せるこだわりが、だんだん削り取られて大人が形成されていく。それでいい面もある。だが、いつしか事の善悪が蔑ろにされ、打算で人付き合いがなされていくばかりの日常になっているとしたら、そしてそのことにさえ気づいていないとしたら、どうだろう。
 子どもの眼差しのように世界を描く才能は基調である。それは子どもの視線ではないかもしれないが、大人の心に必ず響くものが隠れている。




Takapan
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