本

『ナガサキのおばあちゃん』

ホンとの本

『ナガサキのおばあちゃん』
高橋克雄作
吉田隆絵
金の星社
\1260
2006.3

 これは『ナガサキのおばあちゃん』出版支援会の発行による本である。170頁余りの小さな本であり、漢数字のほかはすべての漢字にふりがなが打ってある。小学校中学年ならば十分読み通せるであろう。根気のある子は低学年でも読むだろうと思う。
 小学生のケンちゃんは、ナガサキのおばあちゃんの下で暮らしている。事情があり、平壌の母親と暮らすべく準備がなされていたが、おばあちゃんはケンちゃんを手放したくなかった。だが、とうとう別れるときがくる。
 ケンちゃんは、タキもっちゃんとミカちゃんという友だちがいた。3人は、西坂の二十六聖人の墓地で、義兄弟の契りを交わし、「死んでも助け合う」と手を握った仲だったのだ。
 ケンちゃんは母に連れられて、平壌へ行く。
 時代は、戦争へ、転がるようになだれ込む。
 そして、1945年8月9日を迎える。
 ストーリーを全部書くのは、ある意味で簡単であるが、控えたいと思う。感情をできるだけ抑えて、淡々と綴る文章であるが、時折、力のこもった言葉が並ぶ。それが、読む人の心に刻印を押す。
 子どもたちに、戦争というものを伝えたい。そういう願いがあふれている。私もまた、その戦争を体験していない世代として、もっと体験者たちに聞きたいと願うし、それを継承していく――後にまた伝えていく――働きをぜひやりたいと思っている。そのために、この本が用いられるとするなら、たいへん意義のあることだ。
 描かれるのは、子どもにも刺激が少ないように工夫されている。どこにも、ほのぼのとした風景ばかりが描かれる。厳しい場面でも、実にソフトに描かれていると感心する。戦争を伝えるのに、どうしても残酷な場面の記述は避けられないというのが普通の考え方なのかもしれないが、それを避けてもなお、伝えるべきものは伝わることがあるものだ、と感じた。
 ちょうど、ミカちゃんが勘違いをしていた末、死の間際になってだが悟ったときのように、子どもたちもまた、戦争がどんなものかを、間際にならずとも、知ることになるだろうと思う。
 涙しないではいられない。しかしその涙を、次の一歩にしていくように、励まされる思いもまた、するのであった。




Takapan
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