本

『マイテーマの探し方』

ホンとの本

『マイテーマの探し方』
片岡則夫
ちくまQブックス
\1100+
2021.11.

 論文やレポートの書き方についての本が非常に多く出ている。それほどニーズがあるということだろうか。あるいは、大学生のレポートがあまりにも無残なので、これはなんとかしなければならない、との意識で大学関係者が指南役を買って出ているのだろうか。
 それがついに、中高生をターゲットにしたものになってきた。否、これは中学生向けのものである。ついにここまできた、と言うべきだろうか。それとも、アクティブ・ラーニングが導入されて、小中学生の中にこうした自らの発見と積極的なプレゼンテーションが必要とされるに至り、中学生レベルで、以前なら高校生対象に指導してた論文調の実践が求められているのかもしれない。
 実のところ、著者は中高生相手の教育者である。図書館関係にも属し、図書における「調べ」ということに経験が深い。当然ここにはリテラシーの基本が紹介されるのであるが、本書ではその「リテラシー」という語を持ち出して、中学生をどきりとさせるようなことはしない。正攻法である。自分で調べ学習を遂行するための、丁寧なガイドができあがった。
 イラストも豊富だし、仕事のフローチャートもよく用いられる。つまり、分かりやすさという点では、さすが中学生向け、ピカイチであると言えよう。
 さすがに、テーマは日常レベルではある。不思議に思ったこと、何故かなと思い調べようと思ったことについて、どのように問いを立て、アプローチしていくのかの方法論が、具体的によく紹介されている。まことに、優れたガイドであると思う。
 こうした形式と方法を体験することで、知識が増し知的対象が拡がり深まっていったときに、調べる内容が変わるだけで、方法はもう身についている、そういう状態をつくりたいのであろう。それが従来であったら、いざ論文を書こうとするときに、その書き方から指導しなければならなかった。だが形ができていれば、後は内容が伴えばすぐにできる。これはよい考えだと思う。
 インターネットの中で調べてもよいのだ。ただ、それをどのように提示していくのか、そこから何を考えるかということの意味を説いていく。この理解があれば、将来コピペなどすることが如何に空しいかを知ることがてきよう。ネットで一定の考えを踏まえた上で、自分の気づかないことをまるまる抜けてすべてを台無しにするようなことを避けるという知恵も、ちゃんと紹介されている。しかしWikipediaを資料として使うことはできないなど、学術への基礎を踏まえさせることには手を抜かない。
 実際に素材から論文へ、どのような過程を経てつくりあげていくのか、そのノウハウは、案外多くの入門書には紹介できないでいる。難しいのだ。人それぞれに違うということもある。しかしなんといっても、なんとなく言わなくても分かるだろうという空気の中で、見よう見まねで師匠の型を身につける、芸人や丁稚めいた覚え方があった時代ではない、デジタルネイティブならではの力を伸ばそうとする、温かな視線がここにはある。それはまた、実際に中高生を相手に、こうしたことを実践してきた著者の、強みである。机上の空論ではない。実際に教育現場で試し、育んできた実際の経験に基づいた、生きた方法論なのである。
 なんと最後には、フィールドワークどころか、人に会いに行くときの礼儀や、失礼にあたる失敗例なども豊富に載せられている。実際にあったことだ。その人の本を読んでいませんが、などということが最高に失礼にあたること、封書の宛名を修正テープで直すことがいかに非常識であるかということ、また約束の訪問時刻の常識に至るまで、生き生きと教えてくれているのである。
 具体的な紹介が多く、もしも抽象的にポイントを整理すると、ごくわずかでしかないかもしれないけれども、私は中学生にとって、たいへん分かりやすい、親切な本であると思う。薄いものだが、だからこそポケット版としていつも手にしておくこと、カバンに忍ばせておくことができるというものだ。そして、これは高校生にもお勧めできると思うし、さらに言えば、近年の大学生も、まずここから始めたほうがよいのではないか、とも思わされた。いやはや、何かの発案をしようという、大人にも、これは、役立つのではないかしら。




Takapan
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