本

『ムスメからおとうさんへ。いろんなキモチぐるぐる』

ホンとの本

『ムスメからおとうさんへ。いろんなキモチぐるぐる』
k.m.p(ムラマツエリコ・なかがわみどり)
東京書籍
\1400+
2019.7.

 可愛いイラスト付きの旅行記などで知られる2人組のユニット。これまでも同様の本を出版しているとのこと。私は今回この本で初めて触れた。この「ぐるぐる」というのが二人のキーフレーズで、どの本にもこの言葉が付いている。確かに旅行記として面白いアピールなのだろうと思う。だが今回は、心である。だから「キモチぐるぐる」となっている。
 これまでも「おかあさん」をテーマにしてきたというが、二人にとり「おかあさん」のイメージは共通するものがあったという。ところが二人とも相次いで父を亡くすという情況になったことで「おとうさん」のことを話すと、全然違う体験がそこにあった。まったく違うというのである。どうしてかと考えているとき、「おとうさん」という存在は、「それぞれ」なのだというふうに納得することになったという。
 ムスメからおとうさんへ。これはちょっと興味深い声ではないか。この本は、ユニットのそれぞれの、父親への思いと、寄稿されたファンからの、ムスメからおとうさんへの思いとで、三章にわたり、ひたすらムスメのココロが綴られている。
 グッとくる本である。
 私は娘をもたないが、もしいたらたまらなくなるだろうと思う。そうでなくても、妻からすれば父親をどのように思うものであるか、いくらかは想像がつく、あるいは想像しなければならないというわけで、関心を呼ぶことになる。
 イラストもないわけではないが、それよりも頁のデザインが優れている。色画用紙を切り貼りしたかのような構成で、ふたつと同じデザインの頁はない。そこにさらに自由に配置された文章は、時に詩のように、時に漫画のセリフのように、あるいはまた壁に向かって呟いているかのように、自由に、そしてその都度相応しい形ではまるようになって、流れていく。実に心地よいデザインで、それを味わうだけでもこの本を開く価値があると言ってもよいくらいだ。
 内容についてはあまり紹介し過ぎないほうがよいだろうと思う。ただ最初の方は、父親を病気で失っているため、母をそのように送った私からすると、実にリアルであった。ムスコからおかあさんへ、とあれば類似の構造があるとも言える。もちろん、それらは同じではないから、しみじみ思うと共に、驚きの感情も感じるものがあった。ただ、心の琴線に触れたことは間違いない。
 後の方は、言うなれば不幸な体験を重ねている。幸いというか、私はそのような体験をもたない。しかし錯綜した心理の中で、それでも父親は父親だという理性が根底にあり、複雑な心理を醸し出している。これも読者がそれぞれにどのように感じるか、お読みくださったほうがよいと思う。
 募集されたのだろう、多くのファンの、ムスメからおとうさんへの思いが綴られている第三章。最初はエッセイ風のまとまった声であるが、後半は短くたくさん紹介される。たとえ短くても、父親への愛や思いが伝わってくる。思わず笑ってしまうものもある。しかし、涙がいつの間にかにじんでくるのは、仕方がないところだろうか。
 読む時間自体は長くはかからない。また、一気に読み通したからと言って、決していい加減にしか読んでいないものではないだろうと思う。読者の心の中を、一途な、しかし迷いつつようやく見出したような思いが、駆け抜けていく。人の中に共通に具わる何かが、伝えられてくる。そしてまた、人それぞれに異なる、かけがえのない存在としての父親と子という関係が、温かく響く。苦しい経験もあるだろうし、辛い家族もあるわけだが、そこに、命のつながりがあり、支えがある。確かに心を支えるという事実がある。
 とにかく、どなたも味わって無駄にはならない、ステキな本である。読ませてくれて、ありがとう。




Takapan
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