本

『向こう三軒両隣り』

ホンとの本

『向こう三軒両隣り』
田中敏溥
インデックス・コミュニケーションズ
\1680
2005.11

 温かな本である。建築家の著者が、自分の仕事にこめられた願いを、絵本として紹介していく。
 これは、「子どもたちに伝えたい家の本」というシリーズの一冊である。
 旧き「家」の制度がなくなった後、家文化が衰退していること、そこから、子どもの「居場所」というものがあるのかどうかという視点をもち、建築家が家の再生に取り組む。そういうコンセプトで、このシリーズが組まれたのだという。
 この本は、かつて活きていた「道」に注目させ、そこからその「道」という、人と人とをつなぐものについての思いを綴っていくようになっている。それは、少しばかりわずらわしい気持ちも伴うものであるけれども、それにも増して大切だという気持ちに包まれるものであるという。
 昭和30年代あるいは40年代の風景が、映画やドラマなどでも見直されているが、それは、制作スタッフたちの記憶の中にある風景であるから、というだけの理由のほかに、何か私たちが見落としているもの、忘れているけれども取り戻すべき大切なものが、そこにあるのではないか、と探したい思いがあるからかもしれない。
 ただし、歴史を逆行することはできないから、これからの新しい時代の中に、未来の風景として、それを取り入れていかなければならない。それは、口で言うほど簡単なことではない。建築家は、それを実際に形にする仕事をしている一人であろう。
 多くの人の目に触れたらいいと思う。振り返り、立ち止まることは、過去を単に懐かしんだり、感傷に耽ったりこととも違うだろう。そのために、この本は力になることだろう。
 ただし、個人的に、どうかなと思うところもある。最後の頁で、「地球にやさしい家」ということが突然持ち出され、それで結ばれる。これは、出さなくてもよかった言葉ではないだろうか、と思うのだ。コンセプトでいる「向こう三軒両隣り」だけでよかった。わざわざ、流行の文句を取り入れたために、そのよいところが薄れてしまった、と思う。私たちは、「地球にやさしい」と自ら口にすることで、しばしば、自分に対して免罪符を発行することがあるからだ。そもそも「地球にやさしい」とは何か。そんなことがありうるのか。そうした反省も、実は一方では行われている。「省資源」と言うのは悪くない。「省く」という時が適切かどうかは別にして、それは咎めまい。だが、「地球にやさしい」という表現は、一方では人間の行為を地球に対して過剰に大きく扱い、また一方では、人間が自分で自分を義認している側面をもっているように感じる。
 「人にやさしい家」で留めておいたほうが、私は良かったと思っている。




Takapan
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