本

『ちょっと昔の道具たち』

ホンとの本

『ちょっと昔の道具たち』
イラスト 中林啓治・文 岩井宏實
河出書房新社
\1260
2007.10

 新装版というので、以前もあったのだろう。ちょっとそそる内容である。
 昔の道具が紹介してある。どんなふうに使っていたか。構造はどうか。どんな種類があったのか。
 すべて、イラストというのがいい。その説明もあった。写真はそのままを伝えるけれど、イラストだと、何を伝えたいかがよりはっきり示せるというのだ。指名手配者のモンタージュ写真も、イラストのほうが検挙率が高いというのと似た効果であろうか。
 昭和30年代の懐古からというのもあるかもしれないが、この本は時代を限定せず、古来伝わっているものがよく紹介されている。江戸時代からの歴史を感じさせるものも少なからずあり、ちょっとした古典読解のヒントにもなろう。
 いや、これらは生活道具であり、生活そのものであり、人生の一部であった。食と住に関するさまざまな道具は、その道具を使う人と別物でなく一体した連関の中にあり、それをどう使っていたかの知恵が、人々の生き方そのものであったのだ。
 その意味で、元来の道具の目的や工夫というものも賞味できるが、それとともに、今の私たちの道具とは何であるか、考えさせられる思いがする。つまり、私たちの人生とは何であろうか、ということである。ケータイなのか。テレビや自動車であるのか。電子レンジやレトルトが私たちの食であり、掃除機や洗濯機、水洗トイレが私たちの住環境であるのか。
 民俗学という分野に属する仕事なのだろうが、人の「生きる力」とは、まさにこういうところに表れているのではないか、と強く思うのであった。




Takapan
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