本

『最も大切なもの』

ホンとの本

『最も大切なもの』
樋口進
新教出版社
\1600+
2013.12.

 副題は「若人たちへのチャペル・メッセージ集」となっている。関西学院大学宗教センターの宗教理事を務める著者の、大学における短いメッセージが公開されている。
 いわゆるミッション系の大学では、こうしたチャペル・メッセージが日常的に行われているはずである。やはり学内で担当者が順にメッセージを送るというものであろうが、外部の人に要請することもある。福岡だと、西南学院大学があり、バプテスト連盟の拠点となっている。また、福岡近辺にはこの連盟の教会が多数ある。そこの牧師を順に呼ぶだけでもずいぶん多くのメッセージを迎えることができる。
 しかし、この礼拝は平日であり、キリスト教でいう主日の礼拝とは違う。牧師もそのときなら大学に出向くことができるというのも本当だが、しかしまた、牧師職でない人物でも、この講壇に立つことがある。とくにバプテスト系では、原理的に、いわゆる牧師でなくとも説教をすることは普通にできる。そこで、チャペルにも、様々な立場の人物が呼ばれることがある。信仰をもつ一般の人が、それぞれの立場からメッセージを送るというわけだ。キリスト教について、実のところ何にの知識もない学生に向けて、しかし聖書を開き聖書からのメッセージを伝える。こうした場が与えられているのである。
 おそらく、ここに掲載されたメッセージは、語ると15分くらいであっただろう。もちろん、実際にはこの文章の通りに話したわけではないだろうから、もっと長かったかもしれない。文章にするということは、筋道の通ったすんなりとした文章にしているということだ。そのため、本となって読めばたいへん分かりやすく、すいすいと読める。できればこれを、15分くらいの時間をかけて味わいたいと思うが、実際本だからそのようなわけにはゆかない。
 実は私も、こうした場を知っている。牧師でもないのに、有難い経験である。学生たちへのメッセージは、教会での説教というよりは、授業や講義に近い。信徒に向けてというわけではないのだから、聖書について予備知識がないところに、聖書の真髄をぶつけるということになる。これをあまりに意識すると、当り障りのない教訓話にもなるし、せいぜいが人生論だけに終わる可能性がある。または、ありがちな聖書入門の「よいお話」で済むということになる。だが、どんなに語る者の気持ちが熱くとも、前提となる知識や信仰がない場面で、勇み足のような真似はできない。このバランス感覚が重要である。
 また、時事的な話題も必要である。この本にも、その時々の話題の事柄が挙げられている。これはもう一年後に読めば古臭いかのような気さえする場合があるが、そのときには旬である。学生たちの心を開き、そこに何かを注げるような手段であるならば、どんな話題でもぶつけていくことができるだろう。だが、こういうときこそ、実は語る者の真価が問われているといえる。難しい用語ではなく、誰にでも分かりやすい言葉で、大切な内容が伝えられるということは、最も重要で、実際最も困難な課題なのである。
 奥深いところへ立ち入れないかもしれない。だが、聖書というものを読んでみようか、という気持ちに、もしさせることができるならば、何よりである。ともかくも、語る者に耳を傾けてくれる場が提供される。そうした場面で何をどう語るか。案外、こうした場でどう語られているのか、という本はめったにない。インターネットの世界でも、教会での説教は数多く掲載されているが、学生のためのメッセージは殆ど見た試しがない。その意味でも、こうした本の出版は、実は貴重なのではないか、と私は感謝している。




Takapan
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