本

『月の図鑑』

ホンとの本

『月の図鑑』
縣秀彦
緑書房
\2400+
2026.2.

 横長で左右に開く、ナイスなデザインの本である。上質の写真誌に、ふんだんに写真が載せられている。月ひとつが、こんなにも多様な顔をもっていて、多様な知識を与えてくれるというのは、見ていて気持ちがいい。
 小学生の理科で、月について教えることがある。もちろん、本書の中の、本のわずかなことだ。そのとき、月の満ち欠けと見える空などが問題に出るために教えるのだが、本書にはそのようなうざったい知識は見られない。ないわけではないが、非常に簡略化された形で説明が終わっている。あるいはむしろ、それはもう常識だろうということで、殊更に説明されていないのだろうか。近ごろの子どもは、満月が夕方に見える方角さえ、見当がつかない場合が殆どなのであるから、今後もし改訂版が出るときには、子どもにも親しめる内容を盛り込んで戴けたらと願う。
 それはともかく、本書はやはり大人向けの本である。芸術的に撮影された月や、名画の中の月、あるいは映画で描かれた月――当然あの伝説の「月世界旅行」も触れられている――など、大人が喜ぶような頁が多々ある。
 月食から日食の仕組み、今後の観測可能な日付けなどもあるし、そもそも月に関する数字データや、特に潮の満ち引きとの関連など、月について少しばかり蘊蓄を垂れたい大人にはもってこいの内容である。この満ち引きについては、「もし月がなかったら?」のコーナーで、月が如何に現在の地球の姿をつくっているかを身に染みるほどに教えてくれる。クレーターの大きさはある程度他書で見られても、月の内部については、普通なかなか明かしてくれない。きれいな球状でないことは、地球がかつて月と衝突したという最近有力な説を支援しているなどともいう。
 文化的な、人間と月との関わりにも頁を割くかと思えば、月探査の歴史では、世界情勢も含めて、これからどうなるのだろう、という興味をも揺さぶってくれる。日本もまた、遅ればせながら、月周回衛星かぐやを鬱揚げているから、月についても各国がこぞって調査結果を公開してくれることだろう。とはいえ、地球上での争いや憎しみの解決がなければ、月の探査もあまり意味がないかもしれない。私たちはいっそう、地上の平和を求め、つくろうと努めなければなるまい。
 その未来の探査についても言及し、本書は終わるが、著者は、国立天文台准教授。それでいて、日本文藝家協会にも属しているという。そのため、文化の頁もとても信頼のおける書き方がしてあったのだろうと思う。
 本の題は「月の図鑑」だが、冠の如くに、「じっくりながめたくなる」という言葉が載せられている。さらに、題の舌には、「見え方・人とのかかわり。探査の歴史」と、内容を凡そ全部網羅した形で、言葉が添えられている。まことにその通りの本である。
 1頁あたり20円ほどというように、価格は少しばかり張るが、それに見合う美しさと内容があると思う。全く科学的な視点からの記述と、文化芸術的な眼差しとが同居した、なんとも贅沢な図鑑である。特に日本では、「雪月花」といって、芸術の対象として大きく取り上げられてきた月である。私たちの風土は、古人から、月に対して慕う心をずっと保ち続けてきた。
 すべての子どもたちに、とは言わないが、できるだけ多くの子どもたちに、月に関心をもってほしいと思うし、月を愛しむ文化が育まれ、それを伝えていってほしいと思わざるをえない。本書はそのひとつの力になることができるものだと感じた。




Takapan
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