本

『もじのみほん』

ホンとの本

『もじのみほん』
アイデア編集部
誠文堂新光社
\1575
2012.1.

 はっきり言って、殆どは退屈な書体見本である。どこかにちらりとまとめれば済むような書体が、わざわざひらがな・カタカナ一文字ずつ分けられ、見開き2頁に同じ仮名が厭きもせず並べられていく。
 だが、だからこそ、同じ文字が別のフォントでどの部分がどのように違うか、一目瞭然でもあるから、面白い。太さが、角度が、長さが、微妙に違う。それだからこそ、同じ文章でも書体により受ける印象がこうも違う場合があるのだ、ということが実感できる。
 まことに、人の感情は、思想内容だけで決まるとは限らない。見た目というのは、少なからず影響を与えるものなのだ。
 もちろん、スタイル別に同じ書体をまとめた見本もある。これで、その書体を使ったときにどんなふうな印象になるかが一瞥できる。
 そして巻末の8頁だけが、唯一説明らしい説明となっており、フォントについての基礎知識が簡単にまとめられている。簡潔明瞭で、知りたいことがすぐに分かる仕組みになっている。最新のWebフォントについても触れられており、さしあたりフォントの基本はここで身に付く。私はここが見たくてこの本を図書館から借りたと言ってもよいくらいだ。
 そもそも私は、パソコンの中に多くのフォントを入れている。できるだけデザインの幅を広くとるためだ。個人の手書きフォントというのも、見つけて気に入ればすぐにインストールしておく。これをやりすぎると、システムが重くなったり、起動が遅くなったりすることも承知している。だが、デザイナーがデザインの道具について遠慮することがないように、ちょっとした節約でチャンスを失いたくないと思うのだ。もちろん、すべてをそれほど効果的に利用しているかどうかは疑問である。が、ちょっとした感覚や趣で、ふんだんな見本の中から「これ」と思うものを選びたいときも確かにあるものである。
 そういうことからすると、この本にある、一見無駄なほどに多い微妙な差異のフォントであっても、その違いが大きく影響を与えるような選択というものが少なからず世の中にあるものだと推測できる。私でさえこうなのだ。プロの目は、きっともっと厳しいものだろう。そして、そのフォントを開発する側の人の苦労や挑戦というものも、背後に窺えるのである。
 なお、この本で扱われるフォントは、日本語のものである。漢字は挙げられていない。言い遅れたが、サブタイトルは「仮名で見分けるフォントガイド」なのであった。まったく、この本は表紙からすべてが、こうした文字ばかりでできている。もしかすると、本の題がわざわざひらがなで「もじのみほん」となっているのは、「文字の見本」と読ませると同時に、「文字のみ本」と、文字だけの本であるという洒落であるのかもしれないと感じた。




Takapan
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