本

『みんなが知りたい! 文字のひみつ』

ホンとの本

『みんなが知りたい! 文字のひみつ』
「文字のひみつ」編集室
メイツ出版
\1810+
2025.8.

 シリーズとして「まなぶっく」というものがあるのだろうか。表紙にはたくさんの言葉が溢れている。「進化を続けることばのふしぎ」という大きな文字と共に、「さまざまな古代文字を見てみよう」「日本が生んだひらがなや絵文字」「アルファベットや数字の誕生と拡がり」という小さな文字が並び、「身近な「文字」にはわくわくするちしきがたくさんい」といい、「知っておくと読み書きが楽しくなる!?」で締められている。伝えたいことが、文字でたっぷりと記されている。背景には古代文字を含めた、様々な文字の文献写真が鏤められており、雰囲気たっぷりである。
 ふりがながたっぷりと付いていて、小学生が読むに耐える本となっており、話の内容もそれに合わせて、分かりやすくアレンジしている。このことは、「この本の使い方」に、「本書は、子どもたちにわかりやすく伝えることを大切にしており、内容によっては一部の専門的な表現や細かい背景を省略している場合があります」と断り書きを載せている。また、「一部の情報には学説の違いや未解明の点も含まれています」とも前置きしている。それはその通りだ。子どもに向けて逐一、諸説あるというふうに述べるのもどうか、というところだろう。その点は、小さな文字で地味にではなく、重要な注意点として掲げる方がよかったかもしれない、と思う。
 各章はある程度テーマを以てまとめられており、順に紹介すると、「文字の誕生」「アルファベットの誕生」「中南米の古代文字」「漢字の誕生」、そして「日本の文字の歴史」「数字の誕生」「いろいろな文字の歴史と文化」、最後に「書体とフォントの世界」と並んでいる。
 もちろん、これらの説明は、子ども相手で済む程度のものではない。だから大人がここから学んでよいと思うし、そのときにこそ、諸説あることを踏まえて読んでゆけばよいのではないだろうか。「最初の文字は年度に書かれた線だった」と言い切ってしまうのは、勇気が要るだろう。だが、くさび形文字とヒッタイト、ヒエログリフに関心を絞り、代表的なものを取り上げることで、読者の関心を分散させないようにしてゆくための道を備えたわけで、スムーズに読み進むことができる。
 それがフェニキア文字となり、アルファベットへとつながってゆく歴史を刻む。このとき、ギリシア語には殆ど触れないのには驚く。また、ヘブル文字については全く言及されないというのも、私としては実のところ不満である。つまり、聖書の文字については本書は無関心なのである。
 他方、聖書文化を軸にする視点からは見えてこない、マヤ文明についてたっぷりと記されている点は、学びとしてありがたい。本書では、文字の見かけだけではなくて、その地域の地理的な環境や歴史などにも説明が行き届いているのがとてもよい。
 それが東洋に視点が移り、いよいよ甲骨文字から漢字へと進むのであるが、表意文字としての漢字は、文字としては異様に複雑になる。ヒエログリフも視覚的な意味を伝えるが、それを読解するには現代人としては知恵が必要となった。当時も、書記という教養人でなければ扱えなかったのである。漢字とて、やはり知識層のものであったに違いないのだが、れそをいまの私たちは万人のものとして教育している。これはやはりたまらないことだろうと想像できる。
 漢字については、隷書や楷書が説明されるが、行書や草書についてはむしろ日本の文字の歴史の中で扱われる。行書については、写真の題として使われているだけで、楷書と草書の間に位置するで在ろうことなど、全く解説がなされていない。このように、時折本書には、全く説明抜きで登場する言葉もあるため、大人はよいが、子どもだけで見るときには少々注意が必要であると思われる。
 ベトナムにあったチュノムという文字や、今のチュ・クォック・グーという文字など、アジアの文字についても触れられているし、中国の古い歴史の中の女真文字とその前の契丹文字というものも紹介されていて、時折やけに詳しい項目もあるのが目を惹く。
 カタカナやひらがなについては、学校でも学ぶので、きちんと説明してあるが、他方インドに顕著な数字についての章があるのは面白い。が、ローマ数字やアラビア数字には触れることができず、編集の苦労が滲み出ていると言うべきだろうか。
 第7章で、キリル文字や東南アジアの諸言語、ハングルやエチオピアのゲエズ文字など、あちこち補われているのは、いろいろな文字に目を肥やしてきた頃にちょうどよい解説かもしれない。ここで「絵文字」が日本で生まれたことや、コンピュータの世界での取り決めなどにも目が届いているのは、今風でよいところだろう。
 フォントについては、ローマン体を基準に、ロゴマークの意義や、明朝体とゴシック体についても、極めて簡単にだが紹介されている。
 全体的に、単純化している点は仕方がないと思うが、図版が多く、写真とイラストで十分に文字の世界が紹介されているとは言えるだろう。
 これをきっかけにして、文字というものに興味をもつには、分かりやすいものではある。やや値が張ると感じるかもしれないならば、学校の図書室で借りて読んでは如何だろう。




Takapan
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