本

『まんが人体の不思議』

ホンとの本

『まんが人体の不思議』
茨木保
ちくま新書1256
\940+
2017.5.

 この手のものは普通監修者がいて、漫画家が面白く描くというように相場が決まっているのだが、これは違う。著者は医師であり、漫画家であるのだ。それで、すべてにわたり思い切り描ききることができる。医学的知識においても誤りを表に出しはしないだろう。もちろん、手塚治虫もまたそうであったが、こちらは医学的研究をかなり続け、臨床医として診療を続けながら漫画を、いわば無理なく描いているということになる。
 さて、どうしてこの本を買う気になったかというと、人体について知りたかったからである。中学生の理科を教えるにあたり最低限のことは知っている。しかし、高校の生物になるともう怪しい。聞けばそれなりに思い出せる部分や、理解できるところもあるであろうが、説明するまでには至らない。また、自分の体についても知りたいことがある。健康情報番組の噂に乗っかることが得策だとはちっとも思えないので、やはり理論なり根拠なりを、それなりに知りたいと考える。しかし、専門書は読めないし、啓蒙書にしても、読む負担が大きいと考えるにあたり、この「まんが」を見て飛びついたというわけである。
 いや、実に面白い。コントめいたものもあるし、十分笑いを取るところもあるし、飽きさせない工夫ももちろんだが、医学的な事柄について、どんどん頭に入っていく。もうずいぶん前から、「学習まんが」が花盛りであり、もはや当たり前の領域に入っているとも言えようが、子どもたちにとって漫画で学習ができるのであれば、大人もまた同じだろう。一定の親や大人においては、学習まんが世代でもあっただろうから、大人の学習版としてこうした漫画が出てくるのは必定であったのかもしれない。しかも、これは新書である。新書というのがいい。大人サイズなのだ。持ち歩けるし、見た目も悪くない。
 内容については、細胞からは締り、消化器・血液・循環器・呼吸器・泌尿器、それから内分泌器・神経・感覚器・生殖器に至りかなり漫画も過激になって終わる。だがそれは、生命の根元に関わる事柄に関係する。生殖なくば生命の目的は何一つないに等しいのである。子孫をどうやって残すか、生命体の使命はひとえにそこにかかっている。筆者の意見に過ぎないかもしれないが、未来の人間がどのように変わっていく可能性をもっているかを描き、生命の尊厳のようなことまで最後に考えさせる、心憎い構成になっている。
 その事象の発見者や研究者にまつわるエピソードがいくつか挟まっていて、これもまた面白い。研究室を貸した側が発見者として表彰されるなど、理不尽な歴史も中にはあるものだと、門外漢の私は初めて知って驚く。
 全体的に、何かを分からせようとしているのでなく、楽しく読んでほしいという感じが見えて好ましい。それでいて、自然と関心も沸き、知識も身につくというのなら、こんなに楽しいことはない。ただ、さっさと分かったような気になったことは、記憶に残るわけでもないから、時折開いてみたいという気がする。その点でも、新書という構造は非常に好ましい。これはかなり気に入った。しかし漫画家にして専門家という条件はなかなか満たされないであろうから、そこは監修者であってもひとまずよいことにしておきたいと思う。




Takapan
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