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『三浦綾子創作秘話 〜妻・三浦綾子と歩んだ40年〜』

ホンとの本

『三浦綾子創作秘話 〜妻・三浦綾子と歩んだ40年〜』
三浦光世
小学館
\700+
2016.6.

 三浦綾子氏が亡くなったのが1999年、夫の光世氏は、2014まで、綾子氏の活動をフォローする形で、貢献した。本書もその一つで、代表作のいくつかを取り上げ、その背景にどういうことがあったのか、いわば裏話のようなものを紹介してくれている。
 執筆の発端、執筆中の出来事、あるいは取材の様子、そうしたことが語られていて興味深い。
 私も、三浦綾子氏の著作を皆読んでいるわけではない。ここに挙げられた代表作についても、直接知らないものがいくつもある。逆に、ここに挙げられないもので読んだというものも、いくつかある。
 そうなると、知らない小説について裏話と言われても、面白くないのではないか。つい、そんなふうに考えたくなる。私もその一人だった。だが、それは間違っていた。まず、粗筋が短く記されている。これが絶妙である。話をすべて明かさない。しかし登場人物とその性格がすぐに見て取れ、どんな背景があり、どんな事件が起こるのか、という形で、まるで映画の宣伝のように、期待感増大というところにまで読者を連れて行く書き方なのである。これは学びたい。ほんの僅かな文章で、これほどにわくわくさせる紹介ができるものなのか。
 エピソードがけっこう長い。全部で15の小説しか紹介されていないから、ひとつがそこそこ長い。そして、嫌気がささないうちに、終わる。この長さも絶妙であると私は感じた。妙なところに感心しているようだが、これは大切なことである。ネタバレをせずして、作品を理解させ、作品に期待感を抱かせるという紹介の仕方は、私がこうして本を紹介するときに、理想とするタイプのやり方なのである。
 懸賞小説に当選したことからデビューしたことは、三浦綾子氏本人も度々口にしているし、三浦文学に興味をもつ人は皆知っている。1964年当時の一千万円という額は、気の遠くなるような賞金である。しかし、そこにいくらくらい税金の手が伸びるのか、これは殆ど語られていない。本書には、そこを少しジョークのように、さらりと述べられているので、興味がある方はお探し戴きたい。
 もしもご存じない方がいてはいけないので一応説明しておくが、三浦綾子氏はキリスト者である。戦時中に教育者として働いていた自分を否定するような思いに苛まれていたところへ、肺結核を患う。脊椎カリエスへと至り長期入院を経るが、幼なじみの前川正と再会し、信仰を与えられ、洗礼を受ける。彼との間に静かな愛を育むが、前川氏は間もなく病死する。悲しみの中で現れた三浦光世氏が、前川氏に似ていたことと、同じキリスト者であったこととで、二人での人生を歩み始めることとなる。
 だから、懸賞小説についても、金儲け目的で書いたのでもないし、そのときに限らず、あらゆる執筆活動が、祈りの中でなされている。プロテスタント作家として、尊敬すべきお手本となる二人である。その生活の様子も、いろいろなエッセイや講演会でも明かされているので、キリスト者はきっと多くのことを学ぶことができるであろう。
 その後も病気に見舞われ、あるいは体力的にも問題のある綾子氏の作品は、この光世氏の手によって綴られた。口述筆記に従う役割を果たす光世氏の姿は、さながらパウロの手紙を筆記する人のようであるように私には見えるが、時に意見を言うことがないとは言えないが、基本的にはすべて従順に従うだけであったという。その具体的な姿も、本書の中でちらほら見えてくる。
 特に作品を生むきっかけとなった幾つかのエピソードは、ファンならずとも興味深い。いったい小説というのは、どういうところからどのように生まれるのか。これを、すでに亡き当人ではなく、口述筆記者であり、かけがえのないパートナーとして生きた光世氏であるからこそ言えた、というところに、本書の最大の魅力があるのかもしれない。
 やはり「創作秘話」であるから、小説を生み出すというところに関心のある方には、とくに実りのある読書となるのではないだろうか。人生を考えたい、という真摯な問いかけにも、きっと応えてくれるものがあるであろう。




Takapan
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