本

『見た目を9割上げる写真活用術』

ホンとの本

『見た目を9割上げる写真活用術』
タツ・オザワ
東洋経済新報社
\1470
2009.6

 ビジネスにおいて、人間関係が重要である場合は少なくない。となれば、単純に利益が上がるかどうかだけで計るのではなくて、信頼のおける人であるかどうかという点が大きな意味をもつということである。確かに、それはあるだろう。ビジネスはただの金の大小だという割り切り方をしてよい場面もあるかもしれないが、実際に営んで
みれば、そうではないことを思い知らされる。  ところがその相手が信用できるかどうか、それはなかなか分からない。それでも瞬間的に判断しなければならないことがある。人はどうしているか。確かに、見た目で判断しているのである。一瞬の出会い、見た目でかなり振り分けてしまっている現状がある。
 そういうわけで、第一印象を高めるためにも、一枚の写真が大きく物を言うことがあるのですよ、と訴えたいのがこの本である。
 たくさんの例が写真として挙げられ、ほんの少しの角度や光の当て方の違いにより、全然違った印象を、見た人がもってしまうことが読者自身により証明されていく。その辺りの、著者の流し方が巧いと感心した。つまり、そのアイディアやノウハウの優れている点というよりも、著者の、話の持って行き方が直ぐれている、と感じたのである。
 多くの実例が挙げられる。協力者により、顔写真の印象の優れた例が並ぶ。なかなか説得力がある。このあたりも、著者のプレゼンテーションの巧いところである。イラストらしいものはなく、淡泊な文章のほかはそうした写真の見本ばかりであるのに、なかなか読ませるのである。
 ビジネスにおいて、顔写真の写り方を少しばかり工夫しただけで、大成功した、という例がいろいろ挙げられる。その辺り、たしかにビジネス本の類だからそうなのだろう。ごく当たり前のことを滔々と述べて、それを実行すれば誰もがビジネスで富を築くことができるかのような錯覚に陥る、あれである。ただ、ここには明らかに、好感を抱かせる写真が並んでいるわけで、なるほど、と思わせるものがあると言える。
 サブタイトルに「あなたを成功に導くとっておきの方法」とあるし、タイトルにも吹き出しで「ビジネスに使える!」と目立たせている。こういう辺りも、それ自体売り込みの成功例であろうし、この本を読めば写真一つで大成功しそうな気に、なるほどなってくるものでもあるだろう。
 だが、最初のうちには割と読ませるものがあったにも関わらず、途中から、ただビジネスでの成功話が延々と続くようになっていくのは、弱かった。
 それに、では具体的に写真をどのように撮ればよいのか、というテクニックは、何一つ明かしていなかった。それは、著者がそういう写真家でもあるからだろう。つまり、企業秘密というわけであろう。
 となれば、この本はいったい何のための本なのか。成功例が並ぶばかりという、ありきたりのビジネス書と同様に見るほかないのか。いや、ごく一部に、テクニックの説明が載っているのも事実である。そこを学べばよいのか。それにしては、少なすぎる。実際にどう撮ればよいのか、ということは分からないままに、ただ、こういう写真が撮れたらそれでビジネスは成功する、という呪文のようなものだけが心に残ることになる。
 ブログでは情報を出し惜しみしないで、何でも提供していくと、良いものが返ってくる、と誘う著者自身が、本当のところは、出し惜しみしているのだ、というのがこの本の印象である。それは、一瞬見た目では分からないが、30分ばかりかけて全体を見れば、分かることである。いや、それだけ読ませたということで、著者の勝ちだろうか。
 読者としても、せいぜいちょっと意識するという形ででもよいから、この本の提供してくれた情報をうまく利用することを考えてみよう。まるまる無駄な本ではないのだから。




Takapan
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