本

『耳と補聴器のひみつ』

ホンとの本

『耳と補聴器のひみつ』
加我君孝監修・谷豊漫画
学研
2016.8.

 図書館ではおなじみのシリーズだと言える。学研の「まんがでよくわかるシリーズ」である。手話とろう文化に関心のある私にとり、図書館でこのタイトルはパッと目につき、すぐに借りることにした。
 全編漫画仕立てで、ストーリーの中で、補聴器についての理解を深めていくという構成である。各頁の横にははみだし知識がふんだんにあり、それを拾うことでもずいぶんな量の知識が得られる。そしてストーリーの中でも、たくさんの解説が加えられる。こう聞くと、いかにもわざとらしい物語ではないかと思われるかもしれないが、これが実によくできている。自然な流れで、それぞれのキャラクターもよくできていて、関係もうまく考えられているように見える。構成者もたいしたものだと思うし、漫画も子どもにとり読みやすく、爽やかである。登場人物は数少ないが、そこに感情移入することもできると思う。
 補聴器について、もちろんそれなりの知識はある。が、実際に使っていない私としては、やはり知らないことが多かった。子どものための解説というようなレベルではない。ここにあることを全部知っていたら、補聴器については、そのメカニズムのほかは全部分かると言ってよいほどの内容である。大人なら読むのも速かろうから、短い時間でひととおりの知識を身につけるには恰好の素材である。
 小学五年生の男女が物語の中心にいる。その学校の先生が、とんちんかんな会話をすることから、耳がよく聞こえていないのではないかと推測。そこにリーノという、おばけのような謎のキャラクターが現れる。2人の子どもたちのほかには見えないらしいし、会話も聞こえない。難聴についての解説をほどよく入れていくための措置であろうが、こうしたペット的な、しかし知識抜群のキャラクターは、漫画の常道でもあるし、よくできている。男の子の父親が補聴器関係の仕事をしているということもあり、やがて先生は、補聴器を作るために動き始める。そのために、まずはリオンというその会社の見学をさせてもらう。こうして、補聴器についての様々な知識が、読者共々に紹介されていくことになるのである。
 このリオン社の協力により、本書はできた。それくらい宣伝してよいと思う。それほどに、企業の内実も全部披露していると言えるし、また、このようにして難聴の人のことを考え、製作しているのだということも分かる。
 そもそも音はどのようにして聞こえるのか、耳の構造なども解説されるので、一般的な知識のためにも役立つであろう。
 後発的な難聴についての説明が主であるように見える。年齢的な問題もよく説明されている。しかし、ろう者という点では解説がなかったようである。ろう者と呼ばれる中にも、補聴器を用いると、かすかに音が分かる、あるいは響きとして何か分かるというレベルのことがあり、たとえ鮮明に聞こえることがないにしても、実生活の上で意味があるというケースがあるのだが、その点については触れられていなかった。それは、この先生が突発性か年齢的なものか分からないが難聴になっていくという中で解決されていく問題を扱っているからかもしれないけれども、もしかすると、補聴器を使うと音がきれいに聞こえるようになるのだよ、という点を強調したかったのかもしれない、と感じた。つまり、企業のひとつの宣伝でもあるのだから、ろう者が補聴器を、というよりも、聞こえにくくなっていた人が補聴器で劇的に聞こえるようになる、という項かを表に出したかったのではないか、と思うのだ。
 事の真相はどうか知れない。ともかく、少しとぼけた先生、しかも子どものような純真な心をもった先生が、読む小学生にとっても親しみが沸くことで、ストーリーにどんどん入っていくことができるあたりは、さすがその道の制作者である。物語としても、最後のほうで、心情的にぐいと入ってくるものがあった。私は思わず目頭が熱くなるのを感じたのだが、もしかするとそういう効果は、書いた人々も分からなかったのではないだろうか。私はこの先生の世代である。耳はそれほどまで悪化してはいないが、衰えは当然ある。そして小学校の教諭ではないが、小学生に同じようにものを教えてきた人間である。そういう共通のものがある立場からこの物語の最後の展開を見るとき、どうにも泣けて仕方がなかったのである。
 しかし、これはもう余談である。ほんとうに、これは「よくわかる」。しかも、日本PTA全国協議会推薦という立場のせいかどうか知らないが、無料で図書館に配布されているようなタイプのものらしい。その後、インターネットのサイトでも無料で全部読めることが分かった。パソコン画面で見たほうが余裕をもって見ることができると思うが、一応次のURLであることお知らせしておくことにしよう。
https://kids.gakken.co.jp/himitsu/121/book/index.html




Takapan
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