本

『あなたは見えないところで愛されている』/H1>

ホンとの本

『あなたは見えないところで愛されている』
郡美矢
角川書店
\1000+
2015.12.

 私はkindle版で読ませて戴いた。新聞の記事を見て、この著者に関心をもったからである。価格は流動的のようなので、紙の本の価格を掲載している。
 いまは広島にある教会で牧会している。詳しくは分からないが、聴者の牧師もいて、他方著者も礼拝説教を手話で担当するときもあるようだ。もちろんその時には読み取りの通訳が付くのだろう。逆に、聴者の語る説教にも、手話通訳が常に付いていると思う。このようにして、ろう者と聴者とが共に神のことばに預かる礼拝がなされているということは好ましい。
 著者は、国際手話通訳もできるという。海外の手話は国毎に異なる場合があり、またそれは、聴者による言語と同じ関係とは言えない。たとえばイギリスの手話は、同じ英語のアメリカの手話よりも、地理的に近いフランスの手話にむしろ近いのだと言われる。日本手話とももちろん違うのだろうが、中には似たものもあり、身ぶりという概念に近いものがあるため、たとえば旅行に行っても、日本語と西欧語ほどの開きは感じられないものと思われる。そのせいか、ろう者の中には、積極的に海外旅行に行く方が少なくない。ことばは、なんとかなる、という腹なのたのだそうである。そしてそれは、十分肯けるものである。
 だからろう者のほうが行動力もずいぶんあるということは、私の中でも認識していた。それで、この著者が単独で海外に行っていわば冒険していたとしても、さして驚くにはあたらない。ただ、若い女性が独りで行くとなると、本の中でも告白しているように、危険な目に遭うということもある。必ずしも推奨できるものではないかと思う。でもそうした体験の中で、人との関わりが強くでき、よい関係が築けていったというのは事実のようである。この本には、そんな体験がたくさん書かれている。
 とくに、人を傷つけたことが取り返しのつかない事態を招くことへのエピソードが心に残る。韓国の若い人のことだっただろうが、友が裏切って悪い噂を流して人を傷つけることをしたことを悔い改めて謝るために病院に行く。傷つけられた当人は、それを赦す。そう、クリスチャンだから、赦すということの必要性は感じるし、事実神の前に赦しているには違いないのだ。しかし、当人は、枕を引き裂き、中の羽毛を外に撒き散らす。そして「私は赦す。しかし、この散らされた羽を全部集めてきてくれ」と言うのだ。たとえ謝ったとしても、撒き散らして嘘の噂は、拡がって、取り返しがつかないことになっている、ということを知ってもらうためであった。
 聖書をたくさん持ち出して、聖書を信じようと薦める気配はない。だが、もちろん書き記さないままに、その背景に神があたたかく包んで光のようにそこにあることを、クリスチャンであれば感じることだろう。それでも、お説教くさくなく、明るい信頼に満ちた体験型メッセージが貫かれており、読後も清々しい。信仰書というジャンルと関係なく読むことができる。渡辺和子さんの本がよく読まれているが、私から見れば、もっと痛快であり、読みやすく、心を捕まれる。そして、前向きに歩き始めようという気持ちを押される思いがする。
 関心のある方は本書ももちろんお薦めするが、検索すると、その手話による礼拝の説教を、ウェブサイトで見ることができる。ご覧になると、きっと伝わるものがあるだろう




Takapan
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