本

『小さなギリシャ語図鑑』

ホンとの本

『小さなギリシャ語図鑑』
中澤務監修
三才ブックス
\1900+
2025.11.

 『小さなラテン語図鑑』の姉妹編だという。そのラテン語の方を、以前ご紹介した。その発行は2024年の終わり近くだった。その1年後に、ギリシャ語版が出たことになる。本のデザインは内外共によく似ており、正に姉妹だということがよく分かる。監修者が同じ人物であるからそれは当たり前かもしれまいが、だからこそ2冊並べておきたい気持ちにもなる。
 134のギリシア語の単語が挙げられ、ギリシア文字をローマ字にした綴りと、カタカナ読みとが紹介される。そして10行ほどの解説がつくものが多い。なにより、美しい絵画や写真がふんだんにあり、関連事項としての教養も身につくというものである。
 それなりに単語は知っている私としては、項目そのものもそれなりに分かることが多いが、哲学的なものがそうであるだけで、科学的な語とそれにまつわる事柄については、いろいろと教えられることがあった。
 医学的な用語も、すべて知っているわけではないし、それがギリシア神話に基づく場合には、私は神話をよく知らないので、そうか、などと思いながら楽しく読ませて戴いた。
 また、語源とその後の語の使用とが合わないことがあって、たとえば「メーカネー」だったら、原義が「考案されたもの」であり、古代ギリシャ劇で神役をクレーンで吊して有情させることを「デウス・エクス・マキナ」と言った旨が紹介されている。ここには解説がないので、もしかすると「デウス」が神のことであるとか、「エクス」がfromのような働きであることとか、そこまではお節介しない様子であった。
 冒頭には、「ギリシャ語の成り立ちと現在」というタイトルの、少しまとまった文章が置かれている。古い文明と歴史が語られ、ペルシャ戦争以来アテナイが繁栄して、非常に栄えた時代があったが、ヘレニズム期にコイネーと呼ばれる、ややくだけたギリシャ語が始まる。これは新約聖書などの世界でも有名であるのだが、英語が活用の点で非常に崩れていったのと比較できるかもしれない。このコイネーから、現代ギリシャ語へとつながってゆくのであることも記されている。
 章立ては、分野別にまとめられ、まずは「学問」、それから「芸術」、「神話・宗教」のことば、そして「自然科学」や「医学」のことばへと移り、最後は「現代生活のことば」で結ばれる。
 「おわりに」では、「ギリシャ語のようだ」という欧米の慣用句が、「ちんぷんかんぷん」の意味で使われることを挙げるが、日本に於いては、ギリシャ語は案外なじみ深いものではないか、と問いかけている。西洋から輸入された概念には、ギリシャ語由来のものが多いからだ。
 そして、小泉八雲がギリシャ生まれで、ギリシャ人を母にもつ人だと紹介され、日本の伝統文化に近いところがあるのではないか、と問いかけている。
 人の関心を集めるとしては、こうしたオシャレな書は好都合であろう。
 辞典ではなくて、図鑑。見て楽しめる。そして、これは一応ギリシャ語というものをフィールドにしているが、確かな教養書であることは間違いない。偶々ギリシャ語だったというだけで、いろいろな角度から、西洋文明の背景の一つを学ぶことができる。語源も、謂われも、雑学的にでもいいから、こうした背景についていくらかでも知識をもっていると、何かと考えるときに役立つことがあるだろう。私のようないい加減な人間でも、言葉の元々の意味からでも、新しいことを知る眼差しを与えられることがある。もちろん、ハイデッガーのようにはゆかないけれど、その気持ちも少しは分かるような気がしてくるから面白い。
 文化と歴史、そして人間というものを、何かしら考えるきっかけとなるからには、このような本は、なかなかよいと思う。ぎっしりと文字で埋め尽くされておらず、美しい絵やエピソードによって、心にきっと残るだろうと思うからである。




Takapan
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