本

『メグル』

ホンとの本

『メグル』
乾ルカ
創元推理文庫
\620+
2013.8.

 ここのところ何冊か立て続けに読んでいる、乾ルカ。その手法にもだいぶ馴染んできた。短編連作とでも呼べばよいだろうか。一続きのテーマに沿い、中心人物がどれも貫いているわけだけれども、一つひとつの短編の主人公は、その都度別人が登場し、別の事件が起こる、という仕組みだ。それでいて、中心人物なるものが陰でずっと場をつないでいる。どこかで糸を引いており、仕掛けももたらすのであるが、その中心人物も、最初のただの「謎」から、次第にその背景が見えてくる、というからくりになっている。本によっては、その中心人物を欠くものもあるが、テーマは何か通じ合い、流れてゆく。
 ともかく本書では、ユウキさんという、H大学の学生部厚生課奨学係の女性が、その中心人物を演じている。この人物に私は、先に『わたしの忘れ物』で出会った。どうやら本書の方が先であるらしい。忘れ物のほうでは、ユウキさんの出番は少ない。本書では、五つの物語における5人の学生たちそれぞれに、かなり色濃く関わっている。しかも、ユウキさんの事情についても、次第にほどけてくるようになっている。
 ユウキさんは、事務室を訪れた学生に、無理矢理のようにアルバイトをしろと言う。アルバイトを求めてきた、というよりも、なんとなく来てしまった学生に、これにしなさい、と強引にアルバイトをさせるような姿勢である。もちろん、それにはユウキさんなりの訳がある。その訳というものについても、推理する余地があるようにできている。
 ただ、推理文庫という名前にあるが、殺人事件が起こるわけでもないし、探偵が登場することもない。ごく日常的な場面がそこにある――否、これは断じて日常なのではない。「推理」というよりも、どこか「ホラー」の要素もあると言えよう。特に私は、最初の「ヒカレル」では、あまりにも意表を突かれて、してやれらた、と思った。確かに伏線は十分あったのだ。だが、最初の物語であるから、そのからくりについてまだ慣れていないわけで、読み終わって思わず唸ったほどである。その代わり、そのショックに慣れてしまうと、次の「モドル」になると、これは伏線であるに違いない、というような目で読むようになり、最初のものほどの意外性を覚えることはなかった。
 この二つのタイトルから分かるように、一つひとつの話の題は、ひとつの動詞をカタカナで表記するものとして立ち現れる。そして、読み終わってしまえば、その動詞が題であることに、なるほど、と納得することばかりである。その辺り、うまく名付けてある。また、シンプルな題であるだけに、先入観を伴ってネタを考えるというほどのものでもないと言える。
 だんだんその世界に馴染んでくると、「アタエル」については、途中から解決の目星がついてきた。たぶんこれは、私の「勝ち」だろう。もちろん、サスペンス仕立てとしては、流石、と思えるほどに見事な腕前であった。
 「タベル」は、途中で薬品名が出てきて、それを手許で調べたら何か分かるとは思ったが、敢えて調べずに、そのまま読み進んだ。それが楽しみだろうと思ったからだが、だいたいの傾向は予想したようなところだった。しかし、その大団円には、ひとの心のつながりというものへの願いや希望のようなものが感じられて、読後感がよかった。
 本のタイトルにもなっている「メグル」が最後を締め括る。その割には、長さそのものは比較的短い。連作全体を閉じるに相応しい解決もなされるし、基本的にこの作家の作品はどれも、爽やかな結末がもたらされる。ちょっとスカッとする、というか、よかった、と思えるような気持ちで本を閉じることができるのだ。そして、だからまた読みたくなる、というふうにも言える。
 本の帯に、ユウキさんが学生に言う決まり文句が大きく書かれている。こういうフレーズがある売り方は、なかなかいい。「ガリレオ」シリーズなら、「実におもしろい」という言葉がウリであるように。ユウキさんは、戸惑う学生に、求人票を渡すときに、こう言うのだ。「あなたは行くべきよ。断らないでね。」
 おいおい、キリスト者は神から、そのように呼びかけられているのではないのかね。




Takapan
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