本

『地図からの発想』

ホンとの本

『地図からの発想』
中村和郎編
古今書院
\2520
2005.9

 こだわりの強い本である。
 地図は確かに楽しい。言語による空想力とはひと味違う、グラフィカルな、視覚的情報から想像していくパワーを秘めている。もしかすると地図を提供した側すら気づかないような情報、あるいは意味といったものを、読者が見出すかもしれない楽しみがある。
 それにしても、その「地図」というものに対するこだわり、そして愛着といったものが、本のまえがきからひしひしと伝わるのだから、いきなり本を開くと熱いものに触れるような思いがする。
 それは、同量のあとがきにもまた窺えるものであって、もうここだけ見ても、地図の何たるかをたたき込まれるような気がするのである。
 肝腎の中身は、古今東西様々な地図が掲載され、それをどう読むか、どんな意味があるかが詳しく説明される。「楽しむ」「伝える」「教える」などカテゴリー別に並んでいるものの、基本的には無秩序に地図が次々と目の前に現れるような感じがする。
 地図により、平安京が実に鬼の住む町であったことが明らかになる。地図により、100年前の日本の人口が、それほど都市集中をしていなかったこともはっきりと知る。
 今私たちの目に見えるものからの常識めいたものが、時と場所により吹っ飛ぶことを教えられる。この認識は、大きな意味がある。私たちは、尤もらしい理屈により、簡単に騙されてしまうかもしれないからである。
 新しい店を見て、つい去年までここには何の店があったのか、思い出せないような私たちである。地図への魅力を、この本からたくさん教えてもらえそうである。




Takapan
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