本

『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 万葉集』

ホンとの本

『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 万葉集』
角川書店編
角川ソフィア文庫
\680+
2001.11.

 すっかり定番となった、ビギナーズ・クラシックス日本の古典シリーズ。今回は万葉集を入手した。古書店で100円+税となっているのを探すのであって、ぜひ万葉集を読みたいと思っていたのではない。
 古典の中でも、少し傍流に位置すると思われる万葉集。歌集であるが、平安貴族の優雅な雅ものとは違う。素朴な思いに溢れており、しかし技巧もそこそこ生まれてもくるし、年代的にも作者の層や範囲についても幅広いものだから、多様な文化がここにこめられている。そしてもちろん、文字の問題もある。万葉仮名がここに並べられていたら、もうダメだっただろう。
 このビギナーズ・クラシックスのシリーズは、たんに原典が並んでいるのではなく、ごくわずかな抜粋であるが、それも現代日本語訳をメインとし、背景や文化の解説を施しているものである。だから、むしろ本文はちょっとしたゲストのような顔をして、だがとりあえず項目の最初に掲げられて、看板の誉れは保っているという具合である。
 非常によい企画だと私は考えている。この万葉集にしても、200首ほどしか紹介されていない。しかしそれで十分だ。最後のほうには、伝説物語も載せられていて、浦島太郎物語まであることなど、寡聞にして知らなかった。また、作者未詳歌が半分近くもあることも、改めて気づいたような思いであった。それは一種の資料だったのではないか、と巻末に解説がしてあったが、だとしても、これだけの庶民の歌がいまなお遺されているということを、文化においても誇らしく思うし、うれしく思う。この古き奈良の、あるいはこの筑紫の人々と、対話ができるというのを、ひとつの奇蹟のように思うのだ。
 歌の舞台も、作者や作風にしても、何にしても、テリトリーが広すぎるために、古典の解説としては難しいことだろう。つまり、結局一つひとつ解説しなければならないことになってしまいそうなのだ。文化的説明も、自然ばらばらの知識となってしまう。源氏物語だったら、ストーリーの中で様々なつながりのある説明が施されていたのだが、万葉集となると、一つひとつクイズに答えるかのごとく断片的になりやすいのだ。
 でも、それを強みとしてみよう。ここには、実にたくさんの知識が鏤められている。もはや、歌のほうは読まなくとも、解説に次々と目を通していくと、本書は案外一番忠実に読んだということになるのかもしれない、と思う。そして、例によって、巻末の「解説」がまたいい。万葉集についての不可欠な知識が得られるほか、歌風の変化や、正岡子規や斎藤茂吉との関係にまで言及されている。
 さらに、索引も充実しているし、天皇系図や地図も親切だ。
 高校生諸君、このシリーズはいいよ。いや、大人の皆さんにも、関心のあるものはぜひ手にとってみるといい。自分の中の文化を知る機会にもなるだろう。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります