本

『マンガでわかる「オペラ」の見かた』

ホンとの本

『マンガでわかる「オペラ」の見かた』
小畑恒夫監修・ヤギワタルイラスト
誠文堂新光社
\1600+
2018.4.

 訳あって、小さなオペラコンサート会場に行った。地元のプロの方と学生とがステージを飾った。小さなホールではあったが音響もよく、またその小ささの故に、オペラの声量というものを否応なく体で味わうこととなった。
 しかし歌詞が聞き取れない。もちろん、イタリア語などである。意味が理解できるとは思えない。しかし、それにしても、である。これは自分の浅はかさに基づくものなのだと諦めるしかなかったのだろうか。
 ただ、ちょっとした紹介はあったので、雰囲気は十分に楽しめた。でもそうなると、いったいそれがどういうストーリーであるのか、気にならない訳がない。いくつものオペラからそのさわりが紹介されたわけで、これで一冊ずつ原作を探すとなると大変なことだと思っていた。いや、仮に一冊にまとまっていたとしても、みっちり説明してあるとなると読むのが大変だ。そこへ、図書館の棚に、こんなステキな本を見つけた。
 実に飄々としたイラストで親しみやすい。オペラというとけっこう深刻な内容が多いのだが、その深刻さがリアルにならないくらい、軽くマンガで示されている。開いてみると実に分かりやすい。こんなにも分かりやすく伝えられるものなんだ、と感心した。
 表紙には、「"あらすじ"がわかればもっと観劇が愉しみなる!」と書かれているが、その通りだと思った。それはもうざっくりと、見開き2頁で、そのストーリーが完全に掌握できるではないか。人物相関図も載せられていて、ストーリーを見るにばっちりだ。もちろん、その背景や味わいどころなどは文章で下のほうに補ってあるし、きっちりとした基本データも小さいがちゃんと載せられている。至れり尽くせりだと感じた。
 作曲家についての情報も2頁だが十分すぎるほど紹介されており、この一作で50作品を教えてくれるとなると、これはお買い得というほかない。
 そもそもクラシック番組を聞いていれば題くらいは聞いたことがあるのが殆どだ。曲そのものもよく耳にしているものが少なくない。だが、その内容を知るにはあまりにオペラは雄大で手間がかかり、そして格調が高いように思われた。総合芸術としてのオペラは、庶民がひょいと参加できるタイプのものではないのだ。しかし、それを撃ち破ったこの本は画期的だ。
 もちろん、教えてくれるのは作品ばかりではない。そもそもオペラとは何かというレベルから、特殊用語、ブラボーのかけ声のタイミングへのアドバイスに至るまで懇切丁寧に、知りたいことが分かるように楽しく説明されている。世界のオペラハウスも写真入りで紹介されるし、ところどころのコラムも実に利いている。
 いやあ、大したものだ。これは埋もれさせてはいけない。この本ひとつで、オペラの世界がぐんと身近になる。キリスト教でも、ゆるい解説が話題を振りまいたが、そうした、一般世界とつなぐ役割を果たすのは、今どきはまさにこれでいいのだ。山田耕筰の「夕鶴」は個人的に思い出深いものだが、そこまでがまとめられており、近代オペラについても十分伝えてくれている。間違いない。これはいい。




Takapan
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