本

『マンガでわかる 猫のきもち』

ホンとの本

『マンガでわかる 猫のきもち』
ねこまき(ミューズワーク)マンガ・イラスト
今泉忠明監修
大泉書店
\1000+
2016.6.

 新書版で、190頁程度だが、しっかりした紙を使ってあるので、少し分厚く感じる。監修者は、日本動物科学研究所所長であり、「ねこの博物館」館長であるというから、内容についてはお墨付きというわけである。
 少しとぼけたような、水彩上の色合いのついたマンガとイラストが、実に味があり、また猫についてはイラストながらなかなか的を射た表現がなされているように見え、読んでいて気持ちがよい。
 見開き右頁にコママンガで猫とのふれあいの一場面があり、左頁には文章にての解説と、イラスト猫が一言まとめを提供してくれている。基本的にこの型で、淡々と内容が流れていき、終わるという仕組みである。
 なんだかミーハー的に、猫の可愛さを体験的にでも面白く書いているのかもしれない、という当初の予想は裏切られた。監修者のせいでもあるだろう。猫の行動や性質について、研究に裏打ちされた、信頼できる情報がたくさん詰まっているのである。
 もちろん、猫が話してくれたことではないので、猫のきもちがどこまで正確であるかについては分からない。想像上の解釈ということになるのだろうが、それでもいま人間に分かっていることについては、惜しまず語ってくれる。
 曲がりなりにも、学生のときにアパートの近くを通る猫と、深い付き合いがあった。煮干しあたりで猫を呼ぶと、部屋に入ってくる猫も現れた。あるとき、炬燵の中で猫が増えていたのには感動した。生まれたばかりの子猫がいたのである。布団の上で夜を過ごす猫もいた。香箱座りして私の布団の胸の上で寝るのだ。さらにだらんと円くなることもあったし、ふみふみも沢山してくれた。猫の習性や性質を、たくさん学ばせて貰った。
 その私から見ても、もちろん飼い猫という意味で世話したのではないから、知らないことはたくさんある。トイレの世話をしてやったことはない。食べるものも、どうかすると猫缶を買って来ることもあったが、貧しい学生には大したことはしてやれていない。その意味でも、本書にあることの中には、そうだそうだと膝を叩くものもあれば、へえそうなのか、と全く知らないことも多々あった。私くらいの猫との付き合いがあると、一番本書が楽しめるのではないだろうか。
 その説明が、一つひとつ理に適っているのである。例えば、紙袋を頭に被ると、猫はどんどん後ずさりする。そもそも手足にも、何か被されるのはひどく嫌がるものであるが、頭にそれがあると、決まって後ずさりするのである。これはどうしてかというと、本書によれば、穴に首を突っ込んだ状態を感じているからなのだそうだ。つまり人でもそうだが、穴に頭を入れてしまうと、そこから頭を抜くためには、体を後ろに引くだろう。紙袋を被りながら、猫は穴に頭が入った状態を経験し、後ろに引いていくというのである。なるほど、というしかない。
 猫が首根っこをもつとおとなしいのは、子猫のときに母親にしてもらったことの名残だ、というのはよく分かる。だが、顎を撫でられるのをうっとりと喜ぶのはどうしてだろうか。それは、自分でそこを毛づくろいできないからなのだという。後ろ足で掻くことはできるが、自分でそこを舐めることだけはどうしてもできない。だから、気を落ち着かせるためなどて毛づくろいができない箇所を撫でてもらうと、気持ちがよいのだそうだ。
 このように、猫のすることについて、説明が、短く的確になされる。マンガもその知識にうまくリンクしているので、本全体の半分の量の文章でもたくさんのことを知ることができる。実にバランスがよいと感心する。
 章末には、猫の側から、人間が猫に対してする不思議な振る舞いについて、猫同士で問答をするようなものもあるのがなかなか楽しい。人間はどうして猫の写真を撮るのか。かわいいからだというが、大きな目のようなカメラは気持ち悪いし、フラッシュは勘弁してほしいなあ、というような感じで、立場を変えて猫の方から見られることを経験することになる。この相対的な見方というのが、恥ずかしいけれども、大切なことなのだろうと私は強く感じる。
 これで猫の気持ちが説明できるのか。おおよそは分かるかもしれない。しかし猫は猫だ。一人ひとりが、それぞれの猫だ。人格ならぬ猫格を尊重して、付き合っていくのが一番よいのであろう。私は地域猫のそれぞれの中に、一人ひとりの個性を覚える。人間と付き合うよりは、素直で純で、こちらの心が癒やされていくのをいつも感じる。本書には、人を癒やす意味での猫については触れられていなかった。それはまた、別のメディアで教えてもらうとよいだろう。そこは、先般ご紹介した『ねこはすごい』を補っておくとよいかもしれない。良い本に巡りあった。




Takapan
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