本

『漫画 W・メレル・ヴォーリズ伝』

ホンとの本

『漫画 W・メレル・ヴォーリズ伝』
公益財団法人近江兄弟社・湖声社企画監修
宮本ユカリ漫画
サンライズ出版
\800+
2014.5.

 ヴォーリズが日本で事業を興してからすでに百年余を経過している。
 明治から昭和へと日本を愛し駆け抜けた熱い魂は、日本にとんでもない大きなものをもたらした。
 一般には、建築である。福岡にもその作品が遺る。京都にもあった。私が個人的に知るところもある。近江兄弟社の製品は今も使用している。身近なものだ。
 しかし、やはりその信仰の種蒔きはこよなく大きな意味あるものだった、と言いたい。伝道の思いで、牧師という立場ではないにしろ、召命を受け、日本に渡った。聖書への信頼と神への信仰が、その生き方を通じて証しされている。私にとり、魅力あるという程度の形容では済まないような、大きな人である。
 ここへきて、誰にでも親しんでもらえる素敵な小品が出来上がった。絵本のような出で立ちの、ヴォーリズを紹介する本である。マンガによりその生涯が簡潔に伝えられる。私は別のヴォーリズ伝を知っているが、細かな葛藤や苦労はともかく、あらすじを実に手際よくまとめて伝えているマンガであると感心した。こんなに要点を鮮やかにまとめる能力は私にはないからだ。
 セピア色がまたいい。決して昔の世界は色がないわけではないのだが、私たちからしてその色合いでイメージされるということは、やはり何かじんとくるものを覚える。ただ、その建築は実に美しい。独特の品格がある。先日も私はある大学に行き、その講壇を見たが、ひと目でヴォーリズですねと告げたほどだ。
 巻末に写真も混じえ、最低限の参考文献も挙げてある。つまりは、これは小学生にも読めて理解でき、またここから調べていけるだけの価値ある小品なのだ。表紙も絵本仕立てであり、つくりもしっかりしている。「隣人愛に生きた生涯」という副題は、派手な演出により伝えられているとは言えないが、醸し出すように、それが滲み出てくる印象をあたえる。読者の読み方次第であろう。また、子どもたちはきっとそれを感じてくれることだろう。淡々と、さわやかな描きぶりのようであるが、子どもたちの想像力は、その背後にある辛さを察するだけの自由を十分に持っている。大人が負けてはいられない。行間を読むことのできる大人である。このマンガによるヴォーリズの生涯の中に、どれほどの熱い思いと労苦と神への信頼があるのかを、味わうことができるはずである。クリスチャンならば当然であろうが、そうでない方々にも、十分伝わるはずである。
 素朴な本なのであるが、そんな熱い魅力が、きっとある。
 戦後の日本の再構築に向けて、あまり知られないが、隠れた大功労者である。天皇制を守った人物だと評してもよいほどであり、またそれほどに日本国民の心を大切にしてくれたということである。外交だとか経済だとか、政の要を否定するつもりはないけれども、何を大切にするかという基本的なところで、問いなおす作業を忘れてしまうと、苦い歴史の経験が現実のものとなってしまうことであろう。ヴォーリズを通じて、歴史を考えるということもできるはずだ。そのためのきっかけとなりうる本である。子どもたちに、ぜひ読んでもらいたい。そして、教会に来ている大人のすべてが、この本を一度は見るようであってほしい。隣人愛に生きる必要のないクリスチャンは、一人としていないのであるから。




Takapan
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