本

『笑う招き猫』

ホンとの本

『笑う招き猫』
山本幸久
集英社
\1,500
2004.1

 第16回小説すばる新人賞受賞作。折り紙故に読むかと言えばそうとも限らないが、折り紙はさしあたり読む指針になる。
 だが、これが新人の腕なのかと思う。実に楽しく読ませてくれる。初めの勢いは衰えることなく、軽快に一気に最後まで突っ走ってしまう。たしかに、宮部みゆき氏もまた、「勢いを殺さず、走りきってゴールした作品」だと褒めている。
 アカコとヒトミの二人が漫才コンビを組み、売り出していくときの一年間を描いた物語。実在の組織とフィクションの芸人とを綯い交ぜにしながら、実はたいへんな実在感をもって描かれる。作者の力量はなかなかのものだ。
 それこそネタばれをするといけないので、内容には立ち入らないようにしたいが、登場人物のそれぞれが、現にそこにいるような気がしてならなくなる。テレビをつけると、そこに出ているかのような。
 背の高いヒトミが主な視点の持ち主である。背が低く、元来の笑いのセンスと才能を有し、漫才を二人で始めるきっかけを作ったのがアカコ。二人はプロダクションに入り、苦労して舞台経験を重ねる。物語は二人だけを追うにとどまらず、その周辺に配置される、存在感あるキャラクターとのさまざまなつながりを、ときに縺れさせ、ときに解きほぐしながら進んでいく。それがまた、もたもたした調子ではない。
 決して字のポイントは大きくないのに、テンポよく読み進んでいくことができる。それはまるで、漫才が調子よく進んでいくのと同じようである。かなり楽しめる小説であるし、作者のこれからの作品にも期待したい。




Takapan
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