本

『学ぶ力』

ホンとの本

『学ぶ力』
河合隼雄・工藤直子・佐伯胖・森毅・工藤左千夫
岩波書店
\1680
2004.7

 2003年の「絵本・児童文学研究センター」のセミナーの記録から起こされた本である。それだけ、そこに何か広く訴えるものがあった、ということなのだろう。テーマは「学ぶ」。
 2人の京都の教授からして、どういう方向へ走っていくのか定まっているようなところもあるが、そもそも教育の世界に多大な影響を与え、あるいは発言している2人である。対談や発表の中に、よくほぐれた形での、それぞれの意見や考えが現れてきていると言えるだろう。
 また、詩人の工藤直子の、ハートにピッとくるような指摘には、私も何か同調するものがあった。
 冒頭に、孔子の言葉が引用してあって、知識よりは好きだという気持ち、好きだという気持ちよりはさらに楽しむ思いが大切である、という意味のところから本はスタートした。
 時に、年を経た人の昔語りであるかのように見える部分もないわけではないが、考えてみれば、そうした昔の野武士的な営みがぶつけられるようなことも、最近少なくなった。昔風であるのがすべてよいわけでもないだろうが、若い世代も、そこから何かを汲み取っていく、受け継ぎ方があったほうが自然である。
 できるということを強調しすぎたことへの反省から、わかる楽しさが正面に立てられるようにも流れていく。現今の受験の現場ではやはり、できることを目指さなければならないという事実はあるものの、学生に限らず、おとなもまた、生涯学ぶという、従来なかった生き方が現れたのであるから、それが楽しみである視点、捉え方というものが、基本にあってしかるべきであるというのも、よく分かる。
 今が受験戦争なのだなどという意見に対して、昔は本物の戦争があって、そこへ連れて行かれないためには学生となるために勉強をしなければならなかった、というような指摘があった。たしかに、今の時代を戦争という言葉で表現することは、甘すぎることなのかもしれない。
 そのときには苦しみでしかなかったものが、過ぎて振り返れば、甘美な思い出として捉えられる、というのは凡ゆる事柄に通じる性質である。本の構成者たちもまた、悲壮感なくかつて学びについても思い出して、好評している。
 その中で、学ぶことの意義を、どこか雑談風に描いているこの本の意味は、消して小さくはない。ただ、批判的な観点というものを育てるための学びというものではなかったように見えるので、学ぶことを自分の楽しみとする、というベースでの了解事項であることを承知した上で、流されないように、注意深く読む必要があることを、挙げておきたい。




Takapan
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