本

『人生おもしろ説法』

ホンとの本

『人生おもしろ説法』
田河水泡
日本基督教団出版局
\1260
1988.10.

 19世紀末のお生まれである。のらくろシリーズでお馴染みの漫画家であるとともに、落語作家でもある。そして、クリスチャンであった。
 画家を目指していたが、落語作家としてその才覚を発揮する。当時新作落語というものは殆どなかったはずである。本名の高見沢を当て字で表した漢字四文字のペンネームが、「たがわ・すいほう」と読まれてそちらが定着した。昭和初期ののらくらが人気を得、手塚治虫ものらくろを見て絵を描いていたことはよく知られている。また、サザエさんを描くことになる長谷川町子が後に弟子となるが、クリスチャンの長谷川の影響で教会に通い、田河水泡もクリスチャンとなった。
 この本には、そのクリスチャンしての田河水泡の姿があますところなく現れている。
 小噺のような出方で、会話が出され、それのおかしみを味わわせてから、聖書の福音の深みに入る。いや、実に驚くほど素直て分かりやすい導入てある。このように仕方で牧師の説教が始まったら、聞く者は誰もか心を開くに違いない。新作落語作家の草分けでもあり、売れっ子だったというだけに、笑いの的は外さない。素人には無理である。そのおかしみは、私が思うに、イエスのユーモアにも通じる。
 実はこの本、まだ著者が存命中に出版されているためにすでに四半世紀の時を経たものである。もはや入手は難しいかと思われるが、教会の書棚に眠っていたのを私の息子が見つけて読み、面白いからぜひ私にも読めとしつこく勧めたものだった。ちょっと待てと制しつつも、試しに読んでみたら、これが実に面白い。つまりは教会学校でも、こうした話で聖書のことを聞かせたら、喜んで聞き信じるのだろうという勢いである。福音を語るとはどういうことか、教えてもらったような気がして、息子には感謝している。
 どの小噺にも、絵が付けてある。もちろん自分の筆によるわけで、一流の挿絵が意のままに付けられのであるから、それもまた効果的である。落語というものは本来聞く文化であるから、文字で読むだけというのはもったいない。私たちも、できればこれを声を出して読んでみたい。単に教訓を得たとか、意味がわかったとかいうものではなく、自分の生き方全体に呼びかけられているものとして、神の声を聞くのではないだろうか。
 その福音の内容についても、実によく勉強されていて、感心する。素人としてのその立場は、ちっとも偉そうでなく、牧師でないから詳しいことは分かりませんけどねえ、などととぼけているが、必ずしもそういうわけではないと推測する。人を笑わたり感心させたりするためには、表に現れるものの百倍もの学びをして、理解をしていなければならないことは、私のような者にでも推察できる。
 まことに、田河水泡さんはここまで立派なお仕事をなさっていたのかと、改めて敬服するものである。
 なお、この本は今でも入手可能のようである。その「今」とは、これを記している時という意味であるから、もし今後不可能となっていたら、その点はご容赦戴きたい。




Takapan
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