本

『Let's Try 国際手話』

ホンとの本

『Let's Try 国際手話』
一般財団法人全日本ろうあ連盟
\1800+
2019.10.

 明るい表紙でインパクトがある。本のアピールとしてなかなかの出来映えだと見た。メッセージも明確である。これは国際手話についての本であり、やってみよう、というから実践的な本だ。まさにその通りなのだ。
 意識は、2020年東京オリンピック・パラリンピックであるようだ。外国から来るろう者とのコミュニケーションは、日本(語)手話では対応できない。アメリカ手話も有名だが、世界中となると、それでは通じるとは言えない。手話については、アメリカとイギリスはかなり違い、イギリスとフランスが似ているなど、音声言語とは違った事情もある。現在話し合いのもとに定められている、国際手話というものであれば、それを知る人はどこの国のろう者でも、あるいはまた聴者であっても、言葉を交わすことができるだろう。
 国際手話とは何かという説明から入るのは当たり前だが、単語を覚えるより先に、ちょっとした視線の動きや表情の基本から説かれているのが特徴だ。目指すのはコミュニケーション。単語の記憶そのものではないのだ。これは手話についてご存じない方が多いようだが、手だけで伝え合うのが手話なのではない。体全体で伝える意気込みがあるし、表情や首の傾け方、口の形など、様々な視覚的要素を用いて伝え合うのが手話である。だから日本語で「手話」としてしまったのは、誤解を招きやすい。それは手に限定されるものではない。視覚言語であり身体言語なのだ。最初にその点を押さえておくのは、たいへんよい入り方だと私は思う。
 それから後は、例文をどう伝えるかということを、その単語ごとに写真で見せていく。オリンピック・パラリンピックのための客人たちとの間で、起こり得るような会話の文をマスターするように動いているような気がする。しかしながら、結構それが日常でも活かせそうにも思えてくる。とにかく何らかの例文をいろいろ当たっていくことが、言語を学ぶためには必要なのだ。
 後半は単語集。一定のカテゴリーの言葉が集められ、ボキャブラリーを増やすことができるようになっている。ところどころにあるコラムも、国際手話の背景を知るためにとても親切であるし、興味深い。また、すべての単語には、日本語の文字と共に、英語での概念も分かるように一緒に置かれている。国際手話だから、英語で一般的にまとめあげられているのかもしれない。
 手話として、日本(語)手話と比べると、確かに違うと言えば違う。これだけ違うと覚えるのも大変だし、また、つい日本(語)手話が出てしまいそうになるのではないか。しかしもし覚えようとすれば、聴者の日本人が、英語を覚えるよりはもっと短時間でコミュニケーション可能な状態にはなるのではないかと思われる。最初国際手話を殆ど知らないような状態であっても、そんなときは日本手話を強引に使ってでも、コミュニケーションを図るべきだろう。きっとそれはそれでなんとなく通じ合い、交わることは可能になるだろう。それは、聴者の間でも同じことである。伝えようとする心、相手を知りたいという心、それがまず大切なのである。
 薄いブックレットのように見える中で、価格は高く感じるかもしれないが、本気で国際手話を少しでも知りたいと思うのだったら、これはなかなか効果的なものではないかと思われる。図書館から借りて読んだだけだが、単語はやはり無理でも、国際手話とはどういうものなのかということは、少しでも見えてきたように思う。さて、本当にこれを使う機会というのが、できるのだろうか。ただ、いろいろな文化を知るのは、悪くない。いい本だ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります