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『リーダー論』

ホンとの本

『リーダー論』
高橋みなみ
講談社AKB48新書002
\741+
2015.12.

 なんともミーハーな、と思われるのは勝手だが、これは大したものである。
 なにも私はこのグループのファンだと言えるような者ではないし、メンバーの区別もあまり分からない程度の認識である。ただ、社会性があることはそれなりに知っている。また、良い歌や主張のある歌もヒットさせており、軽いアイドルだというふうにも思っていない。かつてのおニャン子クラブも少し知っているが、それとはひと味違うようにも感じている。
 そのリーダーを務めた高橋みなみさんが、AKBを卒業することになり、自分の経験をまとめたというのが本書である。新書であり、比較的ゆったりと書かれてあるので、他の分量はひどく多いことはないのであるが、なかなかの力作である。いや、この若さで、これだけの経験をしてきた人であるから、言っていることには説得力がある。
 さらに言えば、たいへん理に適っている。
 たぶん、経験知から綴っているのであろうし、自分の経てきた苦悩やそれを乗り越えた点を精一杯作文しているというのが実情だろうと思うのだが、たいへんすばらしいものとなっているのだ。
 たしかに、一部の書評でたいへん評判がよかった。それで、読んでみようという気になったのだが、期待以上だった。
 AKBグループ総監督。そのいかつい肩書きも、男社会のそれとは違う。実に細やかな心の把握がある。ここに書き出しはしないが、ぜひともそれは本書からひとりひとり聞いて戴きたい。すぐれた知恵が満載なのだ。それは、売らんかなのビジネス啓発書などの何十冊分にも相当する。
 たんなる成功者の自慢話でもなく、実際にこれだけのものをまとめあげた人の、正直な心の吐露であるのだ。価値がないわけがない。
 さらに、ファンがいい。正直言って、涙が出た。いいファンに愛されている、とも思った。ただの好みで「推し」ているわけではないことがよく分かる。懸命なのだ。
 AKBグループを、私などは傍から見ているに過ぎないが、見ていて思うのは、一所懸命であること。頑張っていること。それは、たいへんよく伝わってくる。いい加減にしているわけではない、あらゆるものを投げ捨てて、一筋に頑張っているという心を強く感じるのだ。そして、その気持ちを一つにまとめるという大役を、この人は果たしてきたのである。
 タイトルがいい。「リーダー論」、まさにそうだ。えてして、タイトルと内容が合っていないものがあって、私はそれに苦言を呈してきた。だがこれは違う。真摯な姿勢と、実はそれが技術的にも優れているということを伝えてくる。ただ、ご本人は、これを技術だなとと言うと、首を傾けることだろう。そう、テクニックなどというものではない。やはり、心だ。思いだ。
 それはたんに若さに過ぎない、組織はそうはいかないよ、と冷たく大人は言うかもしれない。実際、このグループの経営のためには、そうした組織的思考と人材とが影で苦労していることだろう。だが、活動するメンバーとしての彼女たちがまとまらないと、組織的構築も成立しない。やはり、組織には必要な内容なのである。
 一読の価値は、きっとある。へたをすると、座右の書としてもよい。リーダーとして立つためには。教会の牧師も、これは読んだらいいと思った。




Takapan
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