本

『ラテン語でわかる英単語』

ホンとの本

『ラテン語でわかる英単語』
ラテン語さん
ジャパンタイムズ出版
\2500+
2025.1.

 ツイッターでフォローしていたが、「ラテン語さん」という人が、ラテン語を丁寧に繙いて、語源や概念を解説してくれている。ずいぶん楽しかったし、いろいろためになることを教えてもらったが、その方が『世界はラテン語でできている』という本を出版した。2024年初めのことである。この手の本にしては珍しく、と言うと失礼かもしれないが、非常によく売れて、ベストセラー扱いとなっていた。
 それは、ツイッターに書いていたようなことを、うまくまとめたものである印象を与えたので、少し教養を求める人は求めるのではないか、という感じもした。その意味では、他の人にはなかなか真似のできない本であると言えるし、類書のない面白さをもっていた。
 第二弾のようなものとして、今回本書が生まれた。が、これは先の本とはずいぶんと趣が異なっていた。ターゲットは英語である。ラテン語の語源やラテン語の意味を底流にもつ英単語が、要するに本書のすべてである。面白い逸話が盛りだくさん、ということはなく、ひたすら英単語の暗記目的の参考書のように、どの頁も単語が並んでいる。450頁ほどにぎっしりと単語が並んでいる。そしてなかなかの価格である。さすがに前作ほどのポピュラー性はなく、英単語を増やそうとする人か、単に教養を求める人などでないと、手に取りにくいようにも思われた。
 著者は、TOEIC L&Rテストで満点の990点を取り、英検と仏検でも1級をもっているという。9カ国語に通じ、ギリシア語とラテン語の講座を開いているが、本書の出版時で30代前半とお若い。なんとも羨ましい才能の持ち主であるのだが、その教育的な姿勢もありがたい。言葉を通して、文化を互いに理解する懸け橋になって戴けたらうれしいものである。
 ところで、本書に収められた単語がまた半端ない。いま開いてみた頁から例を挙げることにするが、ラテン語の「munus」が「義務・負担」の意味をもつことを見出しとしている。ほかに「見世物」の意味もあると解説が加えられ、古代ローマでは見世物を主宰して有力者が人気取りをしていたことにも触れている。ここで並んだ英単語が、「common」「numicipal」「immune」「remunerate」となっている。私を基準にしても仕方がないが、馴染みのない語が多い。ここで最後の索引でも、「mu」で始まる英単語の並びをここに示すと、「multicultural」「multifarious」「multinational」「multiply」「multitude」「mundane」「municipal」「municipality」「munition」「murmur」「muster」「mutate」「mutiny」とある。使ったことのない単語のほうが多い。
 こういうわけで、よく見る単語の語源を紹介してふむふむと言わせるようなタイプの本ではない。読者は、なるほどそうか、という印象を受けるというよりも、自分の語彙のなさに絶望的になる虞がある。それとも、皆さんはこのような語は常識的なものであるのだろうか。
 とはいえ、最初には、ラテン語についてきちんと説明がなされているので、ここは教養としても十分ありがたい。「古ラテン語(紀元前7〜3世紀)」「古典ラテン語(紀元前2世紀〜紀元2世紀)」「後期ラテン語(3〜6世紀)」「中世ラテン語(7〜15世紀)」「近代ラテン語(16〜19世紀)」「現代ラテン語(20世紀〜)」と、歴史的な意味や特徴が解説され、最後に「俗ラテン語」という形で、古代に民衆が話していたラテン語について教えてくれている。
 そして、本書の本題である、英語に与えた影響が、短いながらも系統だって書かれており、いまでも英語の中に普通に使われ得るラテン語の一覧が掲げられている。カント哲学でも有名な「a priori」や「ad hoc」「et cetera」「Q.E.D.」「versus」といったポピュラーなものもそこにある。また、接頭辞や接尾辞の一覧は、本書の理解にも役立つし、そもそも一般的に英語の単語を増やすためには必需の知識であるとも言えるだろう。
 ご丁寧に、文法用語も、英語だけの人には分からないかもしれない「格」とか「未完了」とか言葉について、ごく簡単ながら、説明が加えられているのも親切である。
 本書は1月に発行されているが、早くも4月には、もうひとつ類書が出されるというニュースが入ってきた。『ラテン語さんが教える 外国語上達への学習法』というものだ。今度は勉強法ときた。これも楽しみだ。




Takapan
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