本

『小さなラテン語図鑑』

ホンとの本

『小さなラテン語図鑑』
中澤務監修
三才ブックス
\1800+
2024.11.

 小さな本であるが、丁寧につくられた、美しい本である。全編が写真で構成されていると言ってよいほどで、ラテン語が英語との関係の中で紹介されている。その文字数は決して多くはないが、だからこそ、心に残るとも言える。
 INTRODUCTIOに、「ラテン語の成り立ちと現在」が掲げられる。もともと文字を持たなかった言語が、文字をつくり出すに至る過程が記される。偶々なのかどうなのか、その言葉がローマ帝国の勢力拡大により、世界的な言語へと変貌するのである。ヨーロッパ文明を基礎づけるものとしてラテン語が用いられ、初期ラテン語から古典ラテン語・後期ラテン語・中世ラテン語と受け継がれ、とくにカトリック教会の公用語として、学問の基礎にもなり、英語へも影響を与えてゆく。元来フランス語やスペイン語のルーツであったラテン語であるが、日本の読者に対しては、英語を掲げるほうが親しめるわけで、以後、英単語とその基になったラテン語とを並べ、簡潔な解説を入れてゆくことになる。
 ところどころ、要所と言える箇所に詳しく、あるいはコラム的に説明がやや多くなされ、関連語の一覧表も置かれるが、たいていは、1/2〜2頁に一語ずつ、紹介されてゆく。
 CaptulumTは「身近な英単語の語源」として、アルファベット順に並んでいるが、すべての単語がこうであっては、まとまりがつかない。本書は辞書ではなく、読み物である。なかなか興味の湧くような工夫がなされている。CaptulumUは「フィクションの世界」と題して、映画や物語に使われた言葉が集められている。「E.T.」や「Ultraman」から「Quo Vais?」まで、知る人にとっては実に魅力的な単語が並んでいる。
 個人的に嬉しいのは、いまの最後のものを、カタカナで「クゥオー・ウィーディス」と書かれてあるような点だ。長音を明確にしているとともに、「v」を「ウ」で表している。古いラテン語では「u」の字がなかったため、「v」で表されていた。ラテン語の歴史においては、基本的にこれは「ウ」と読むべきだとされているため、現代語の読みで「ヴ」と平気でされることには、私は抵抗を感じていた。著者は古代ギリシア・ローマの哲学をフィールドとし、光文社版のプラトン著作の訳者としても知られる。後に分かれた「u」は、むしろドイツ語のuウムラウトの路線で捉えるべきで、まさに「ユー」の方向で使われるようになったのだと思うが、この辺りは素人の説明を鵜呑みにせず、詳しい解説を参照くださるようにお願いしたい。
 CaptulumVは「企業や商品の名前」であり、「AEON」や「Canon」「SONY」などの日本企業もだが、「Audi」や「Juventus」など、気になる名前も扱われている。企業名は、企業の理念や本質を示すためのものであるから、名付けるときにラテン語を使うというのは、伝統と信頼を重ねるのにもよかったのかもしれない。
 CaptulumWは「ラテン語由来の動植物」。「animal」が「anima」に由来するのは当然であるにしても、それが「animation」になっていることも、近年はよく知られるようになった。思想的には「animism」について知ることは重要である。その他、おなじみの動植物の名が並び、誰にでも親しみのある章となっていると思う。
 CaptulumXは、エトセトラ。その他いろいろ、ということだが、宝石や光、身体や都市や国の名が紹介される。中学の社会科で、「エクアドル」の名は「赤道」という意味だ、と教え込むのだが、「Ecuador」のルーツのラテン語は「aequator」であり、これは「均等にするもの」という意味である。「イコール」の意味であり、「aequo」(等しくする)から産まれた、後期ラテン語であるということが、短く書かれていて、これは「赤道」とただ暗記させるよりはずっと説得力があると言えるだろう。私も意識していなかったので、勉強になった。
 その章の最後には、ほんの少しだが、「ラテン語の名句」が紹介されている。「Ars longa,vita brevis」や「Cogito, ergo sum」、「Jacta alea est(賽は投げられた)」「Memento mori」などが並んでいる。そして締め括りが「Tempus fugit(時は逃げ去る)」であるのは、何か象徴的なようで、面白かった。
 なお、「参考文献」のひとつに『世界はラテン語でできている』や『中世ラテン語の辞書を編む』など、最近の本も挙げられており、これはいま、少々ラテン語が密かなブームになっているらしいことを暗示しているのではないか、とも思われた。




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