本

『ラストレター』

ホンとの本

『ラストレター』
木藤亜也
幻冬社
\1260
2005.8

 すみません。知らないというものは知らないもので、『1リットルの涙』という日記が、もう20年近く前に話題に上っていたことに、少しも気づいていなかった。
 脊髄小脳変性症という難病に冒された中学生の女の子。普通高校に進学するも、病気の進行から、養護学校へ移らなければならなくなる。その後、入退院を繰り返し、書いたり食べたりすることもできなくなる。日記をまとめた本を出版し、注目されるが、25歳にて、1988年に亡くなったのだという。
 これが2005年秋、「1リットルの涙」という題そのままに、テレビドラマとなった。
 この木藤亜也さんが、良き理解者でもあった友達に宛てた手紙が遺っている。それを集めた本が、新たに出版された。「1リットルの涙」亜也の58通の手紙、というサブタイトルが付いている。
 私信であるから、細かな状況は、第三者には分からない面がある。だが、それにも拘わらず、大変なリアリティとなって迫ってくるものがある。
 病気は進行することはあっても治ることがない、と言われてもなお、持ち続けられる明るさ。いや、その陰にはどんな暗さが潜んでいることだろう……。
 冷たい言い方をすれば、この人よりも不幸な人は、世の中に沢山いると言えるだろう。辛い運命にある人のこの手紙の中に、どこか恵まれたものを感じることができる、と言えるかもしれない。
 だが、この人は、突きつけられた運命に対して、真摯に向かい、受け止めている。ただ翻弄されるのではなく、また抵抗するのでなく、言葉でもしっかり捉えようと構えている。そこに、私たちがどう生き、どう死ぬかということの型を見なければならないのではないだろうか。たんに客観的に不幸の度合いを比べたりしてよいはずはないのである。
 そして私は、後半になったところで、ますます驚いた。この人は、聖書を受け容れている。さらに、祈りを欠かさぬようになっていく。教会に行きたいという言葉は見られるが、現実にどうなったか、この本だけからは、分からない。だが、たんに教会堂に足を運ぶかどうかに関係なく、この人の魂は、聖書の救いをに確かに与っている点は、疑いがないと思われるのだ。
 テレビドラマが、そのところを深く描くことができるかどうかは分からないが、苦しみを正面からは吐き出さない手紙という中に、希望を抱いている真実を、聖書や祈りの記述の中に、はっきりと私は見出すことができると思った。
 神は真実である。




Takapan
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