本

『あなたを疲れから救う 休養学』

ホンとの本

『あなたを疲れから救う 休養学』
片野秀樹
東洋経済新報社
\1500+
2024.3.

 畑村洋太郎氏が「失敗学」を提唱したのは、もう四半世紀も前のことだ。誰にも知られているかというと、そうでもないのだろう。大切な分野なのに、もったいないことだ。今回は「休養学」という提言がなされた。「日本リカバリー協会」なる団体の理事を務める医学博士が、本書の著者である。団体の活動のひとつとしてテキスト刊行が挙げられているが、本書がそれをまず果たした、というところだろうか。
 本の冠として、「「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した」と掲げてある。「休養」をとにかく対象として、様々な角度からそれを探ったものである。
 本の見た目としてだが、黄色を基調に、あの「防災」本に近い印象を与えるのと、重要な命題はゴシックでしかも黄色いマーカーが引かれたようになっている。データやグラフが効果的に置いてあるし、イラストも適度に交えてあって、なかなかいい。
 しかも、内容が科学に基づいているということと、なによりもその述べ方が分かりやすい点は、強調してよいと思う。文章でだらだら書いてあるのではあるが、ひじょうに読みやすいのである。専門的な用語を並べることもなく、かといって思いつきや予想ではなく、科学的に裏打ちされた形で書かれてあるため、信用度が高いものと思われる。たとえばカフェインを摂取すると眠れなくなるシステムについて、簡単な喩えを用いて語ってあるのを見て、私は納得した。こんなふうに話せばよいのだ、と感心したのである。
 本書は、「人はなぜ疲れるのか」「疲れても無理をして休まずにいると、人間の体はどうなるのか」「どんな休み方をすれば最も効果的に疲れがとれるのか」という疑問に答えるものであることが、「初めに」で押さえられている。しかも、それはかなり個人的なことである。本書では、「休養」と同じ言葉で言うところのものについて、7つの捉え方を区別し、それを個人的に組み合わせて用いることにより、効果的な休養をもたらそう、としているのだという。
 そのために、まず「疲れている」現状について明らかにし、その「疲労の正体」を分析する。その際、筋肉の疲れは乳酸が増えるため、というような俗説についての怪しさを指摘し、何故そう思われていたか、というからくりまで示してくれる。こうした丁寧さは、信頼を得るきっかけとなるだろう。「休養」をとる7つの「戦略」という第3章が、本書のウリだと言えるだろうか。逆説的かもしれないが、適度に運動することによって、休養となる、というのだ。それは私にはよく分かる。ただ寝ていれば疲れがとれる、というわけではないであろう。もちろん、それはその疲労の度合いや種類によって異なる。その人の気の持ちようというものも関係するかもしれない。本書は、そうした凡ゆる場合を想定した上で、7つのタイプがあるということを見せてゆく。そして、適切に判断する眼差しと、無理をしない対処というものに対して注意を促している。
 休養となると「眠る」ことが一番だ、という考え方もある。が、それも条件があり、睡眠の仕組みを、いま分かっている範囲内で解説し、アドバイスしてゆく。良い睡眠は休養になることは確かだから、効果的な睡眠のための知恵というものを、ここで授かりたいものだ。
 最後に「新しい休み方」を提唱する。疲れる先に休んでおくことや、すき間時間を休養に充てること、職場の「休養」に対する考え方の改善など、今後の環境整備を含めて、休養を重視する考え方を示す。
 章末にコラムが用意してあるが、最後には「疲労は未病です」と、気になることが書かれている。健康と病気との二元論を避ける理解である。健康でもないが病気でもない、そういう「未病」という状態に対する事柄として、この「休養」という視点が宛がわれることになるのだろう。こうした概念的な前提というものは、普通に考えていると見落とされる。それは、疲労と休養の問題に限らない。私たちは、AでなければBである、という薄っぺらい捉え方から、様々な分野で解放されるべきだろう。
 本書を読むだけで疲れる方がいらしたら申し訳ないが、その「読む」ことにも疲労が生まれないように、本書はなかなかよくつくられていると思う。今後の「日本リカバリー協会」の活動にも注目したい。私たちもまた、何かをリカバリーすることへ、勇気をもらえたような気がする。




Takapan
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