本

『共視論』

ホンとの本

『共視論』
北山修編
講談社選書メチエ344
\1575
2005.10

 母子像の心理学。九州大学大学院の教授が発案した、日本の浮世絵に特徴的な、母子が共に何かを見るという構図から読みとる、母と子の関係に、幾多の研究者が反応して、それぞれの角度から切り込んでいく試みである。
 正面を見据えたりする西欧の聖母子とは全く違うその描かれ方の中に、日本的な「場」の文化を見出していくもので、多くの著者が紛れていく中で、妙にまとまりさえ感じていたのは、私一人ではないだろうと思う。
 視線というものをどう捉えるか、ということで、日本文化の一面を捉えていく知的な試みは、けっこうわくわくさせてくれた。もしかすると、ここに「世間」とか「甘え」とかいう概念をクロスオーバーさせていくと、さらに社会的・心理的に面白い世界が構築されたかもしれない、などと傍観者が無責任なことを考えてみた。
 もしかして、出してくるのかな、という期待はあったのだが、編者は、冒頭の編者自身による切り出しの論文の中で、最後に、「あれ」を出してきた。
「あのとき 同じ花を見て 美しいといった
 ふたりの 心と心が 今はもうかよわない」
 フォークギターの練習ではかつて必ず用いられた名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」の中に、ちゃんとこの視線のモチーフが備えられていたわけだ。まるで、『巨人の星』において、キャンプでの紅白戦で柴田に偶然にせよ起こってしまっていた大リーグボール1号が、後に現実になっていくように、かの名曲の作者自身が、そこに研究テーマを再認識するのである。
 フォークの雄、きたやまおさむさんは、精神科医として九州で頑張っています。どんな方か浮かんでこない方は、検索してみてください。ちなみに、京都府立医科大学の卒業生でもあります。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります