『今日も一日君を見てた』
角田光代
角川書店
\1100+
2015.1.
表紙を飾るトトちゃんの写真が、なんとも愛らしい。知っている。NHKの「ネコメンタリー」で見ている。作家と猫という組み合わせをテーマに、文学仕立てで、文学を――否、たぶん猫を、映し出す番組である。そこに、トトちゃんも出演していた。
その角田さんが、ただ猫だけを、ひたすら猫についてのみ、綴ったエッセイを集めた本である。本書の後に、続編が出ているため、本編としては、このトトちゃんとの出会いから始まっている。西原理恵子さんから貰い受けた子は、角田さんにとって、未経験のゾーンをつくりだした。
その辺りの事情も、とにかく猫のことと、猫と自分との関係のことを、ずーっとここに記している。頭の中にはもう猫しかいない。何をした、これをした、きっとこうなのだろう、などと寄り添いながら、一挙手一投足を全部記録しているような勢いだ。それだから、タイトルの「今日も一日君を見てた」とは、正にその姿を表すのに過不足ない表現である。
もちろん、文筆家としてプロの文章である。文章だけでも、十分その猫のことは伝わってくるのであるが、表紙の他に、3箇所、まとまった頁に、トトちゃんの写真集が完成している。それを見て文章を味わうと、もうその猫が頭の中に動き始めて仕方がない。
KADOKAWAが発行していた文芸雑誌「本の旅人」に連載されていた文章であるため、枠が決まっていたのだろう、本書では8頁ずつきっちりと、一回分の文章が収められている。初回の「我が家に猫がやってくる」をも例外として、他はすべて、「猫」という字で始まるタイトルとなっている。そのうちの幾つかを覗いて、大部分が、「猫、〜」という形式で目次に並んでいるのは、もう拍手するしかない。
飼い始めの二つめが「猫、病院にいく」とあり、買い始めたら当然予防接種などの必要もあるが、ここに描かれているのは、不妊手術である。それが、次の「猫、手術を受ける」ということなど、このトトちゃんは、体に少々難を抱えていた。著者に言わせると、運動神経も猫にしてはいま少しよくない。どうも、聞き知る猫の常態とは、だいぶ違うところがあるのだという。
が、とにくこうしたことが細々と、手にとるように分かるべく綴られた1冊である。前編、猫。ただただ、猫。猫の生態観察をしているような錯覚に陥るが、ここには飼い主の愛情と、それに対して理解をしている猫の姿が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。もう十分だ、と言いたくなるほどに、猫について、と言っても特定の一匹の猫についてだが、これでもか、というほどに書かれている。
一般的な猫とはまた違うだろう。だが、トイレの砂のことや、お気に入りの猫缶はどうかなど、これから猫を飼おうとする人や、飼いたいと思っている人にとっては、実体験バージョンの参考書となっていることを、保証しよう。幾らとろいところのある猫であるとはいえ、やはりそこは猫である。すまして歩きつつも、飼い主のことをよく見ている。
終わりの方にある「猫、世界を変える」には、時代区分としての「BC」や「AC」「についての解説がなされている。ラテン語などではない。Catの「C」であり、あとはBefore,Afterを表している。角田さんは、この紀元の前後で、まったく異なる世界になってしまったのだという。
猫は平和。猫は平和の大使。そんなことを妻が言う。
その猫について、胸に迫る創作が、角田さんにはある。テレビのネコメンタリーで読まれた超短編で、この単行本には入れることができなかった。それが、2017年に発行された、一回り小さな角川文庫の本作には、ボーナストラックとして巻末に置かれていた。きゅんとくる作品で、ネコメンタリーのときに読まれていたのを思い出した。
さあ、それでは続編の方を、次に読むことにしよう。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド