本

『それは京都ではじまった』

ホンとの本

『それは京都ではじまった』
黒田正子
光村推古書院
\1680
2005.10

 おばあちゃん、どちらの党に投票なさいました? ――はぁ、うちはもうずっと保守やさかいに、共産党どす。
 これがジョークか実話かは確認していないが、京都の一つの風景を醸し出すエピソードとして有名である。
 京都は本来新しがり屋の土地であると言われる。この本では、京都贔屓の限りを尽くすような、京都で一番、という話題を紹介することに挑んでいる。いやぁ、とにかく京都で一番最初というものはないか、鵜の目鷹の目で探しているような状況である。
 たしかに、千年の都の土地である。歴史を遡れば、あれのルーツもこれの発端も、この京都にあるというのは、まだ理解できる。だが、都であることを脱却した明治以降も、次々と、新しいものが京都から始まっていることが分かる、そんなエッセイ集である。
 YMCAがバスケットボールやバレーボールというスポーツを考案したことは有名になってきたが、三条柳馬場の京都YMCAの地下に、日本最初のボーリング場があったことなんか、全く知らなかった。よく知っている建物であったはずなのに、歴史的なことは何一つ知らなかった。この本を開いていくと、あれもこれも「知らなかった」ばかりである。
 知ったからと言って、どうということがないのも事実である。だが、私のように中途半端でありながらも、京都で暮らし、京都を愛している者にとっては、渋い一番自慢をするというのは、かなり魅力的なことなのである。
 よく調べられた、思い入れの強い本である。埋もれた歴史を明るみに出してくれるような本である。博多の人間が、新しもの好きで飽きっぽいのに対して、京都の人間は、新しもの好きでなおかつ守っていこうという意識が強いのかもしれない、などとふと思いたくなるような気がした。




Takapan
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