本

『歴史で読み解く 図説 京都の地理』

ホンとの本

『歴史で読み解く 図説 京都の地理』
正井泰夫
青春出版社
\1,000
2003.10

 かつて京都に住んでいた。住んでいれば、いつでも行けるさの気持ちと共に、すっかり観光地から足が遠のいてしまった。行かずじまいの場所がいくつかある。あるいは、ほとんど庭同然に暮らしていたような空間もある。長男は、保育所からお外に散歩に行くときには、京都御苑(御所)に毎日行っていた。そこで松ぼっくりをかじるなどして逞しく育った。
 面白い。一つのテーマを見開き2頁に収め、右は歴史の説明、左は図解としている。実に見やすいし、内容も興味深い。右頁の文字数も多すぎず少なすぎず、適切ではないかと思われる。
 テーマは、歴史上のことや祭の名が並ぶのはもちろんのこと、京の通り名や京野菜、京都の地震や大学についてなど、京都の特色の内外について、様々な角度で解説が進められる。
 また、京都という呼び名で、広く丹後地方にまで説明が及んでいるの点も優れている。京都を考える場合、必ずしも今の京都府に囚われる必要はないにしても、京都とのつながりや影響の強いこうした周辺部も、歴史の中で同様に指摘され注目されてよいはずである。
 著者は、地理や地図にかけての権威。すばらしい業績を背景に、京都の隠された歴史や、誰もが何故だと思うようなことへの解答を、この見やすいパノラマ的な本の中で明らかにしている。
 惜しむらくは、京都の外部の人だということか。経歴を見る限り、東京に生まれ、活躍した研究機関も京都ではない様子。京都に定住して眺める定点をもってはいなかったようである。それでも、豊富な知識と実地の調査により、実に面白い書物ができあがった。ただ、多分に地元の人であれば、章のタイトルに「大文字焼き」の表現は使うまい。私も京都人から見ればよそ者、田舎者に過ぎないが、それでも「送り火」という表現しか使わない。それが京都で暮らす者の視点である。饅頭じゃないのだから、(この本にあるように通称などではないし)「大文字焼き」などと呼ぶ人は、地元にはいない。博多で「やまがさ」と発音する人間がいないのと同じように(無粋ながら山笠はもちろん「やまかさ」である)。




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