本

『からだで分かっちゃう草野球』

ホンとの本

『からだで分かっちゃう草野球』
イトヒロ
学研
\1260
2004.4

 いやはや、驚く。草野球にかけるこの情熱。そして、マニアックな研究。
 たしかに、世には立派な野球指導の本が溢れている。プロの経験者、評論家、アマチュア野球の指導者やトレーナーなどが、ありとあらゆる角度から正統的な技術や練習方法を紹介している。写真入りも多いし、プロ選手の分解写真も載せている。
 しかし、この本は全く違う。いわば、練習しないで成功する方法が書かれているのである。
 華々しい野球経歴があるわけでもなく、部活動さえ経験がない。そんな著者が、道楽で始めた草野球。練習する時間もないし、観客もいない。だが、チームの中で誰よりも打率アップを願う。では何をすればよいか。そこから、著者の眼差しが始まる。試合をする当日だけになされるべき研究の積み重ねが、驚くべき知恵を生み出した。それがこの本なのである。
 打つのはタイミングだ、と著者は言う。アッパースイングであれダウンであれ、当たればそれなりにいい飛び方をするのだから、当たって遠くに飛ばす目的のためには、タイミングさえ合えばいい、と言う。――暴論である。だが、練習もしないで打率を上げるのには、これほどよい方法はない。
 どうせ肩が弱いなら、サードは思い切り前で守れ、という。一般の野球論に惑わされてはならない、というのだ。たしかにその通りだ。プロではたまらないが、草野球の打球ならそのほうが合理的だ。
 こうした極端に聞こえるような裏技ばかりがあるわけではない。ランナーのリードの距離感覚や、グラブの捕球を失敗しないための具体的な傾け方や日頃のグラブの管理など、実に奥が深く、説明内容が豊富である。なるほどと思えるような知恵が盛りだくさんなのである。
 また、草野球独特のコツも記されている。投手の心得がいくつか並ぶ中、「味方のエラーを責めない」というのがある。これは、なかなか他の指導書にはない記述だ。そして、当たり前のことだ。そういう当たり前のことがなかなか頭にないから、試合ではとんだエキサイトをしてしまうものだ。やはりこのようなアドバイスは貴重だ。
 そのように、メンタルな面の記述は、この本の一つのウリかもしれない。カウントごとに、打者の気持ちを明文化して、投手としてどう攻めるか分析している。バットの構え方やスタンスの取り方一つでも、同様にどう攻めればよいかの知恵が、経験を集めたものとして記されている。
 草野球、畏るべしである。25年間の草野球の経験は、こんなにも熱い、そして楽しめる野球技術書となりうるのである。それは、一流舞台だけが芸能ではない、と庶民に愛されるような、大衆演劇の喜びに似たものさえ感じさせる。
 自分が野球をするなら、こんな本がいい。しみじみ思う。




Takapan
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