本

『暮らしの感染対策バイブル』

ホンとの本

『暮らしの感染対策バイブル』
堀成美監修
主婦の友社
\1400+
2020.10.

 現場に私たちがいて、事態が進展中というところへ、新型コロナウイルスについての知識や生活様式を本にして出版するのは勇気が要るだろう。もとより、瞬間的に売れればよいとするのならばそれでもよいが、見通しをつけたところで、一カ月後に全否定される可能性もあり、嘘を書いているということにでもなると、著者や出版社の信頼をなくすことにもなりかねない。
 著者は、感染症対策のコンサルタントであるという。専門職である。政府の言うままにと働くような人ではないようだ。だから、というわけなのかどうか知らないが、本書の立場を一言で言うと、楽観、ということになる。
 見通しも甘いところがあるし、日常生活へのアドバイスにおいても、おおらかである。
 では、それはよくないことなのか。用心しなければいけないのではないか。私は必ずしもそうとは思わない。
 私たちは、必要以上に怯えていたのではないか。いや、怯える必要はない、と言っているのではない。適切な恐怖感は望ましい。しかし、恐怖心は警戒心や猜疑心へと展開し、いわゆるコロナ警察を生み、他地域から来た者を迫害するようなことも行われた。それを悪だというように裁くのではなくて、人がそういう心理になっていったのはどうしてか、それを防いだり避けたりすることはできないだろうか、という方向で考えたいと思う。
 その結果が、ひとつの楽観視なのである。安心しようよ、神経質になりすぎないようにしようよ、という呼びかけは大切である。リラックスしよう、という提案である。
 もちろん、押さえるべきポイントはある。本書でも、向き合っての接近で一定時間以上マスクなしで話すことの危険性は、幾度も繰り返されていた。どうしても避けなければならないことはあるのである。だが、それさえクリアすれば、特定の何かあることが、一概にダメだなどという必要はなく、行えると考えたいのである。
 たとえば飲み会はダメ、と一般には言うかもしれない。しかし、横に並んで話すことのリスクは相当減るという根拠により、飲み方や工夫によりできるかもしれない、と提言する。これは極めて現実的であり、また喜ばしい提案ではないだろうか。
 表紙にはうるさく文字が踊っているが、タイトルにしても実は「今日からできる!」が頭についている。また、「気になるシーン別一問一答165」という目立たない説明は、本書の中身を的確に伝えてくれている。Q&A形式で、素朴なイラストによる説明がある。親近感がわく。読み進めやすいし、要点もよく頭に残る。繰り返す内容は心にぐっと入っていくであろう。
 その意味で、いざ開いて読み始めると、非常によくできていると思うのだ。
 だから、読む者の心を少し明るくしてくれる、そういう点で安心材料となるであろう。精神安定上、よろしいということだ。
 それで細かなことにあまり目くじらを立ててはいけないと思うのだが、電車の乗り方については少し苦言を挙げたいと思う。電車では飛沫という点では立つほうがよい、というところはよかったが、自分はいつもドアに背を向けて立っている、としていた。これは迷惑な乗り方である。よほど人が少ない場合には基本的に問題はないが、立つ人がほかにいた場合、非常に迷惑である。ドアの方を向いて立たないと、多くの人は立てない。そして、それこそ向き合う体勢となるから、感染症についてもよろしくない。
 コロナウイルスの科学的な性質などについては全く触れられない。とにかく私たちが生活する上でどうすればよいのか、どれが安全で、どれが危険なのか、それを教えてくれるものとして、読んで少し前向きになれる本となっている。
 但し、出版時期の問題で、今後の感染見通しについても、楽観の度が強い点は否めない。第3派についても楽観しているフシがあり、さて、どうしたものか、と思ってしまうのであるが、その責を負わせるのは、気の毒だろうか。




Takapan
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